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GMAのこれまでとこれから:GMAのクリニカルパール探求

Adacolumn Clinical Pearl

アダカラムインタビュー記事シリーズ

GMA 20年をこえる臨床知見からの提言

全国の先生方より、消化器および皮膚領域における最新の診療状況を踏まえた上で、様々な視点から顆粒球吸着療法(GMA)の日常診療における活用方法や工夫、メリットや課題についてお話いただきます。

IBD:炎症性腸疾患、UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病、PP:膿疱性乾癬、PsA:乾癬性関節炎(関節症性乾癬)

※先生のご所属先および役職、治療指針等は掲載時点の情報です

秋田県アダカラム
インタビュー記事シリーズVol. 20

UCのステロイド依存例・抵抗例に対するGMAを用いた治療戦略

秋田赤十字病院 消化器内科
あきた健康管理センター 所長
飯塚 政弘 先生

非薬物療法であるGMAは、UC治療指針において難治例に対する治療選択肢の一つとして位置づけられています。そこで今回は、GMAを用いた治療戦略、中でもステロイドの漸減と離脱を目指したGMAの活用方法についてご解説いただきました。

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秋田赤十字病院におけるIBD診療の実際

 秋田赤十字病院は、秋田県における炎症性腸疾患(IBD)診療の中核病院として、秋田市のみならず、県内のほぼ全域から患者さんをご紹介いただき診療を行っています。

 現在当院では約230名の潰瘍性大腸炎(UC)患者さんと約60名のクローン病(CD)患者さんの診療を行っていますが、その多くはクリニックや総合病院で治療に難渋し紹介された患者さんのため、難治例や重症例の割合が高くなっています。そのため、当院では基本治療の5-アミノサリチル酸(5-ASA)やステロイド治療に加え、各種生物学的製剤を中心とした最新治療や顆粒球吸着療法(GMA)など様々な治療を行っています。これらの治療のうちインフリキシマブは化学療法室と、GMAは腎臓内科・腎センターと連携して行っています。

 

UC難治例に対するGMA療法の効果

 近年、生物学的製剤をはじめとする多くの新薬が登場しましたが、UC治療の基本は大きくは変化していないと思います。当科では基本治療として、軽症・中等症の患者さんの治療は5-ASA製剤より開始し、適切な治療を行っても改善しない場合には原則としてステロイドを使用し、重症例では原則としてステロイドを治療の第一選択としています。生物学的製剤などの新薬は、主としてこのような基本的治療を行っても改善が得られないステロイド抵抗例や、寛解に至ってもステロイドの減量・離脱が困難なステロイド依存例などの難治例の患者さんに対して使用すべき薬剤ですので、近年の新薬の登場により難治例に対する治療法は大きく変化したと思います。

 UCの治療指針においてGMAは難治例の治療法の一つとして位置づけられていますが、私は難治例の治療目標はステロイドフリー寛解と考えています。最近、私がこれまでに治療に携わったUC難治例におけるGMAを含む血球成分除去療法(CAP)の治療成績をレトロスペクティブにまとめてみたところ、初回CAP治療(平均CAP回数:8.8回)による臨床的寛解率は69.1%、ステロイドフリー(ステロイド離脱)寛解率は45.5%と良好な成績が認められました1)。また、この治療成績はステロイド依存例と抵抗例で有意差はみられませんでした。

 さらに、初回CAP後に再燃や増悪をきたし、再度CAP治療を行った患者さんの治療成績を調べたところ、初回CAPでステロイドフリー寛解が得られた患者さんの83.3%が2回目のCAP(CAP再治療)でもステロイドフリー寛解が得られましたが、初回CAPで臨床的寛解のみが得られた患者さんでは12.5%で、また初回CAPで効果が認められなかった患者さんは2回目のCAPも全例無効でした。

 初回CAPでステロイドフリー寛解が得られた患者さんは、その後再燃時に3回目、4回目のCAPを行っても、それぞれ83.3%, 60%と高い頻度でステロイドフリー寛解が得られました。これらの結果より、初回CAPでステロイドフリー寛解が得られる患者さんはCAPに対して良好な感受性を有しており、再燃時に複数回のCAP治療を行っても治療効果が期待できるものと考えられました。

 また、初回CAPでステロイドフリー寛解が得られた患者さんは長期治療成績も優れており、ステロイドフリー寛解維持率は1年後68%、2年後60%、3年後も56%でした。これらの患者さんのほぼ全例が内視鏡検査で粘膜治癒に至っており、CAP治療後の粘膜治癒の達成が長期的な寛解維持に寄与していた可能性が示唆されました。

 

UC治療におけるGMAの新たな可能性

 ステロイド依存例の患者さんに対してCAPを併用しながらステロイドの減量・離脱を試みる治療は以前から行われていますが、ステロイドは徐々に減量していく必要があり離脱までにはかなりの時間を要します。そのため、CAPを週1回の頻度で行うと多くの場合ステロイド減量の途中で10回のCAP治療が終了してしまい、その後CAPの併用なしでステロイドを減量中に再燃してしまった患者さんを経験しています。

 そこで、当科ではステロイド依存例の患者さんに対して、CAPの施行間隔を2~3週間に延長し、原則としてステロイドの減量・離脱が終了するまでCAPを併用する「Long-interval CAP(LI-CAP)」を行っています2)。当初の検討では、LI-CAPによりステロイド依存例の患者さんの80%が寛解に、60%がステロイドフリー寛解に至りました。また、ステロイドフリー寛解に至った患者さんは、6カ月後、12カ月後とも66.7%がステロイドフリー寛解を維持していました【】。

 その後、症例数を増やした検討でも、LI-CAPにより79%の患者さんが寛解に、54%の患者さんがステロイドフリー寛解に至ることが確認されました3)。このような結果より、LI-CAPはステロイド依存例の患者さんのステロイド減量・離脱に寄与しうる可能性が示唆されました。当科では、UCの活動性が高い時期はIntensive GMA(週2~3回法)、活動性がやや落ち着いたら週1回法、その後ステロイドの減量・離脱を試みる時期にはLong-interval GMA(2~3週に1回法)のように、活動度や治療目的に合わせたGMA治療を行っています。

 CAPの治療効果予測因子として、ステロイドナイーブ例、罹病期間が短い例などが報告されていますが4)、CAP治療時の患者さんの状態をみて治療効果を予測しうる臨床マーカーは報告されていません。CAP治療を開始した頃、CAP治療中の患者さんから"手足がぽかぽかと温かくなってきた"という声をよく聞き、そのような患者さんにはCAPが非常に良く効いている印象がありました。そこで、CAP治療時の"温感"の有無による寛解率を調べたところ、温感ありの場合の寛解率は温感なしの場合に比べ高くなっていました5)。また、温感を認めた症例では実際に皮膚温も上昇傾向にあることもわかりました。CAPの治療効果予測因子としての温感の有用性については現在多施設共同研究で検討を進めています。

 UC難治例の治療として、本邦ではGMAの他に生物学的製剤などが推奨されていますが、その中でGMAを選択する最大の理由は安全性によるものと考えられます。治療の有効性とともに安全性の考慮が必要な場合にはGMAは難治例治療の第一選択となりうる治療法と思います。また、当院では5-ASA治療中に再燃をきたしステロイド治療を拒否される患者さんに対しても、ステロイドを使用せずCAP治療を行うことを選択肢として考慮しています。最近では、ステロイドナイーブの患者さんの約60%がステロイドを使用せずGMAにより寛解導入されたことが報告されています4)

 このように、5-ASA製剤の効果が不十分でステロイド治療を拒否する患者さんや基礎疾患などによりステロイド投与を避けたい患者さんに対してもGMAは試みるべき治療法の一つと考えられます。今後、更なる患者さんの高齢化の進行やそれに伴った併存疾患の増加を考えると、非薬物療法であるGMAの果たすべき役割はさらに大きくなるものと考えられます。

秋田赤十字病院_飯塚先生図表.jpg

1) Iizuka, M. et al.:World J. Gastroenterol., 27(12), 1194-1212, 2021
2) Iizuka, M. et al.:Intern. Med., 56(20), 2705-2710, 2017
3) 飯塚 政弘 ほか:日本消化器病学会雑誌, 115(suppl-2), A767, 2018 (第60回日本消化器病学会大会, 2018年11月)
4) Yamamoto, T. et al.:Clin. Transl. Gastroenterol., 9(7), 170, 2018
5) 飯塚 政弘 ほか:日本消化器病学会雑誌, 110(suppl-2), A926, 2013 (第55回日本消化器病学会大会, 2013年10月)