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GMAのこれまでとこれから:GMAのクリニカルパール探求

Adacolumn Clinical Pearl

アダカラムインタビュー記事シリーズ

GMA 20年をこえる臨床知見からの提言

全国の先生方より、消化器および皮膚領域における最新の診療状況を踏まえた上で、様々な視点から顆粒球吸着療法(GMA)の日常診療における活用方法や工夫、メリットや課題についてお話いただきます。

IBD:炎症性腸疾患、UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病、PP:膿疱性乾癬、PsA:乾癬性関節炎(関節症性乾癬)

※先生のご所属先および役職、治療指針等は掲載時点の情報です

東京都アダカラム
インタビュー記事シリーズVol. 64

UC治療におけるT2Tおよび内視鏡検査の実際と GMAへの期待

慶應義塾大学病院 内視鏡センター 専任講師
筋野 智久 先生

UC治療では、設定された治療目標を達成するための治療、すなわち"Treat to Target (T2T)"の概念が一般化し、STRIDE-IIにおいて提唱された「短期的には臨床的寛解」「中期的にはバイオマーカー的寛解」「長期的には内視鏡的治癒」を目指す診療が広がっています。そこで今回は、ハイボリュームセンターにおけるT2Tの実際について、内視鏡検査の実施頻度や各種バイオマーカーの活用法、治療強化のポイントなどを中心に解説いただき、併せてUCの寛解維持療法を含むGMAへの期待についてお話を伺いました。

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慶應義塾大学病院におけるIBD診療および研究について 

 慶應義塾大学病院は、日本におけるトップクラスのハイボリュームセンターとして全国から患者さんが集まる施設となっています。IBDに関して、2022年の外来通院患者数は、UC 2,382人 / CD 845人であり、今後も更に患者数は増加することが予想されます。当科では土曜日も含めて円滑な検査や治療を行っており、CDへのバルーン内視鏡小腸狭窄部拡張術なども速やかに施行可能となっています。そして、多くの受診患者数を背景として、臨床研究はもとより、基礎の病態探究に至るまで幅広い研究が実施されています。

 

 私も、基礎領域において"腸管免疫の生体イメージング"を研究テーマの一つとしており、2016年 Science誌に掲載された「組織内の制御性T細胞(Treg)の可視化」1)に向けた実験系確立を契機として【】、Tregが粘膜固有層から上皮に移動した際の変化や、小腸と大腸における局在部位および移動速度の違い等について報告してきました1,2)。これらTregの動態は、UCの病態解明や新たな治療法開発の発端となる可能性も考えられます。実際に私たちは、UC治療に用いることもある生薬"青黛"の作用機序について調査しました。その結果、青黛の成分を含む食餌を与えたマウスでは、特徴的な遺伝子を発現したTregが上皮直下に誘導される現象を生体内イメージング下で認めました2)。これらの研究を礎として、腸管内における免疫制御が解明される時代が近付きつつあるものと期待しています。

 

 

慶應義塾大学病院のUC治療におけるT2Tおよび内視鏡検査の実際 

 近年のUC診療の傾向として、患者数増加を背景にIBD専門医ではない実地医家の先生方による診療の機会が増えており、多岐にわたる施設から多くのUC患者さんを紹介いただいています。私たちIBD専門医が、治療に難渋するような患者さんに対して分子標的薬を含む豊富な治療選択肢を用いて病勢をコントロールする役割を担い、最終的に寛解維持療法が5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤のみで可能となった段階で逆紹介を行っています。

 

 UC治療にあたっては、共同意思決定(Shared Decision Making: SDM)をベースに治療を選択していますが、IBD専門医の責務として、ライフスタイルを十分汲み取った上で、患者さん個々に適した治療プランの提案が強く求められているのではないでしょうか。このため、患者さんの生活背景を、限られた診療時間の中で入念にヒアリングすることが重要であり、さらに患者さんの生活状況の変化や様々なライフイベントに応じて治療を再考し、それらを円滑に乗り越えられるよう手助けをすることが望まれていると考えます。例えば、重要なライフイベントを控えた際、治療強化を図るべきか、あるいはイベント終了まで変化を避けるべきかという選択は、個々の患者さんの状況を鑑みて適切に判断する必要があると捉えています。

 

 このように患者さんの背景や希望に応じた治療を行いながら、その一方で、設定された治療目標を達成するための治療、すなわちゴールドスタンダードとされるSIRIDE-II3)に則った "Treat to Target (T2T)"も併せて遂行していくことが望まれます。この点もIBD専門医の責務であり、患者さんの自覚症状が改善されても腸管の炎症は残存しているような乖離が生じた場合、患者さんへ治療継続の意義を十分説明し、理解を得ることが求められます。

 

 現在のUC治療では、新薬の開発やGMAを含む集学的治療の進展によって、多くの患者さんが長期の寛解維持を目指すことが可能となりました。この寛解状態のモニタリングに有用となるのが、便中カルプロテクチン(FC)やロイシンリッチα2グリコプロテイン(LRG)などのバイオマーカーです。これらバイオマーカーには、寛解状態における再燃の兆候を捉える目的と、再燃や増悪時の病勢を評価する2点の役割があり、特に小児や妊婦など内視鏡検査の負担を軽減したい場合に、より非侵襲的なモニタリングツールとして適しています4)。当院では、LRGの結果が即日中に得られる体制が整備されているため、日常診療で活用しやすい部分もあります。FCは感度に優れる特長がある一方、結果が得られるまでに即日から数日要する場合もあり、両者を適切に使い分けている施設が多いのではないでしょうか。

 

 FCやLRGなどのバイオマーカーによって、内視鏡検査頻度の適正化も可能となっていますが、その一方で、大腸全摘術を回避しながら長期間UCに罹患されている患者さんが増加しており、潰瘍性大腸炎関連腫瘍(UCAN)に対する内視鏡サーベイランスは、より重要性を増しています。当院では、UC発症後8~10年経過した場合、寛解が維持されている場合は2年に1回、活動性を呈したり、何らかのリスクがある場合は1年に1回、既に異形成などを認める場合は3カ月から半年に1回程度の間隔で内視鏡検査を実施しています。なお、UCANは発見が決して容易ではなく、検査機器が進歩を遂げている現在でも、内視鏡専門医による熟練した観察眼を必要とします。当院ではUCANの検出能改善に向けて、平坦型病変に対するインジゴカルミン散布の可能性について報告していますが5)、このような臨床知見の蓄積に加え、熟練した観察眼を次世代へ確実に継承するための内視鏡専門医の育成体制も併せて重要と考えています。

 

 UCにおける再燃抑制に加え、UCANの発生抑制の観点からも、より正常粘膜に近い粘膜治癒の達成が望まれますが、Mayo Endoscopic Subscore (MES) 1の際に、MES 0を目指すための治療強化に関しては、議論も生じているのが現状です。当院では、5-ASA製剤の増量を行っても炎症が残存するような場合は、治療戦略として次のステップへの検討を行っており、GMAも治療強化における重要な選択肢の一つとして期待しています。

 

 

GMA治療への期待と今後のIBD診療の展望

 当院ではGMAの臨床試験へ積極的に参加しており、実際に私も3年間ほど穿刺を担当するなど、GMAの効果と安全性をはじめとした臨床上の特徴に関する知見と経験を有しています。特にUC治療においてGMAに期待する点はステロイドフリー達成の可能性です。UC寛解導入において、ステロイド総投与量が抑制されたことが示され6) 、またUC寛解維持においても、最終評価時までに全例がステロイドフリーを達成したことが報告されており7,8)、GMAは期待される選択肢の一つと捉えています。

 

 UC寛解維持療法においてGMAが選択肢として考慮される患者像として、COVID-19の流行以降に増加した「感染症を含む治療の安全性を心配される患者さん」や、副作用として感染症リスクを避けたい「小さな子供がいる患者さん」、「高齢の患者さん」、「結核の既往歴のある患者さん」などが挙げられます【】。その他にも、「担癌患者さん」など免疫系の治療に対するリスクを有するUC患者さんは一定数存在するため、そのような場合にGMA9)は選択肢の一つとして重要な意義があると考えます。また、GMAの再治療時の効果が報告10,11)されているのと同様に、寛解導入時にGMAに対して治療反応性の高いUC患者さんでは、再燃時にもGMAの効果は維持され、さらに再燃を繰り返しても効果減弱が発現しにくい印象を持っています。

 

 なお、GMAによるUC寛解維持療法では定期的な通院が必要となりますが、当院では入院および外来の双方でGMAの施行体制が整備されています。しかしそれでも、大学病院の性質上、一定の待ち時間が生じてしまうため、今後は透析施設などとの地域医療連携をさらに推進させることで、患者さんが通院しやすい地域および夜間や土日など通院しやすい時間帯の両面から患者さんの利便性向上を図りたいと考えています。

 

 最後に、今後のIBDに対する内視鏡の未来像について考察した場合、IBDの治療目標である「内視鏡レベルの炎症の抑制」から「顕微鏡レベルの組織学的な寛解」、さらに「電子顕微鏡レベルの上皮の再生」について観察することが、病態解明に向けて重要と捉えています。例えば、電子顕微鏡によって観察された特徴的な上皮再生パターンが、UC再燃の予測因子となる可能性も考えられ12)、その現象を病態解明への足掛かりとすることに加え、日常診療における内視鏡検査でも同様に観察することが出来れば、治療強化要否の規定因子にもなり得ると推察されます。すなわち、組織学的な寛解や上皮の再生を内視鏡によって直接観察する、あるいはリンクする所見や観察法を開発する、そしてそれらに基づいた新たな治療目標を設定することが、IBDにおける内視鏡の未来像ではないでしょうか。

 

 一方、上皮再生の観点から、新たなIBD治療の可能性が広がっており、慶応義塾大学や東京医科歯科大学では、"オルガノイド"と呼ばれる立体的な3次元構造を形作るよう培養された細胞の塊を用いて、粘膜の傷口をふさぐアプローチによる研究13)を行っています。この研究では、再生を過剰に促進した場合、癌化が危惧されるため、細胞間シグナルなどを用いて、再生のアクセルとブレーキのバランスを調整することが求められ、この点の研究が現在も進められています。このようなアクセルとブレーキの考え方は、現在のIBD治療においても同様であり、免疫を必要以上に抑制すると感染症リスクの上昇が懸念されます。そこで、過剰な免疫抑制を避けつつ病勢をコントロールするために、炎症性細胞を吸着除去するだけでなく、サイトカインバランスの是正に働くことが期待できるGMA14)などの非薬物療法を組み合わせた集学的治療の意義は大きいと考えています。

慶應義塾大学_筋野先生_図表.jpg

1) Sujino, T., London, M. et al.:Science. 2016;352(6293):1581-1586.
2) Yoshimatsu, Y., Sujino, T. et al.:Cell Rep. 2022;39(6):110773.
3) Turner, D. et al.:Gastroenterology. 2021;160(5):1570-1583.
4) 小林 拓:日本消化器病学会雑誌. 2021;118(3):229-234.
5) Takabayashi, K. et al.Dig Endosc. 2023doi10.1111/den.14628.
6) 下山 孝 ほか:日本アフェレシス学会雑誌 1999;18(1):117-131.
(利益相反:本研究はJIMROの資金提供を受けて行われた。)
7) 承認時評価資料:潰瘍性大腸炎の寛解維持に対する血球成分除去療法の有効性の検討
8) Naganuma, M. et al.:J Gastroenterol. 2020;55(4):390-400.
(利益相反:本研究はJIMROからアダカラムの提供を受けて行われた。)
9) Motoya, S. et al.:BMC Gastroenterol. 2019;19(1):196.
10) Iizuka, M. et al.:World J Gastroenterol. 2021;27(12):1194-1212.
11) Fukuchi, T. et al.:J Clin Biochem Nutr. 2022;70(2):197-204.
12) Nomura, E., Sujino, T. et al.:Dig Dis Sci. 2021;66(9):3141-3148.
13) Ishikawa, K. et al.:Gastroenterology. 2022;163(5):1391-1406.
14) 柏木 伸仁:日本アフェレシス学会雑誌. 2011;30(1):39-47.
(利益相反:本研究の著者はJIMROの社員である。)