GMAのこれまでとこれから:GMAのクリニカルパール探求
アダカラムインタビュー記事シリーズ
GMA 20年をこえる臨床知見からの提言
全国の先生方より、消化器および皮膚領域における最新の診療状況を踏まえた上で、様々な視点から顆粒球吸着療法(GMA)の日常診療における活用方法や工夫、メリットや課題についてお話いただきます。
IBD:炎症性腸疾患、UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病、PP:膿疱性乾癬、PsA:乾癬性関節炎(関節症性乾癬)
※先生のご所属先および役職、治療指針等は掲載時点の情報です
八王子消化器病院におけるIBD診療の実際
当院は名前の通り、消化器に特化した病院で、常勤の医師全員が消化器内科および消化器外科を専門としております。このため、消化器疾患に関しては検査数も処置の件数も非常に多く、これらの経験に基づいてESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)の新規トラクションデバイスや1)、カプセル内視鏡の読影に関する手法2)などに関する知見を報告しています。
初診の患者さんがどの診療科に向かえば良いか分かりやすいように、当院では2021年度から炎症性腸疾患(IBD)や胆石・鼠径ヘルニア等の専門外来を設立しました。他院から先生方が紹介しやすいように、という配慮から外来に疾患名を冠したのですが、もちろん通常の消化器内科外来も毎日開設しており、そちらにIBD患者さんが来院すれば、随時対応を行っています。
年間のIBD患者数は、潰瘍性大腸炎(UC)約500例、クローン病(CD)約90例です。近年の傾向としては最初から「UCやCDの疑いです」と指定して紹介される例が多くなっているように感じています。非専門医にもIBDが以前より広く認知され、Common Diseaseになってきているのではないでしょうか。
UC治療における基本方針と留意点
UC診療において、新薬が多く上市された現在も5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤とステロイドが基本治療薬であることは変わらないと考えます。まずは5-ASA製剤から治療を開始し、病状のコントロールが難しい場合や5-ASA不耐例などにはステロイドを投与、それでも効果不十分の場合は生物学的製剤へとステップアップしていくことが当院の基本方針です。UCは臨床症状から治療効果を比較的判定しやすい疾患であるため、一種類の薬剤に固執するのではなく、効果が乏しいと判断すれば別系統の薬剤を提案するようにしています。その際は、各治療法の特徴や留意点を含め、患者さんとよく話し合い、受け入れ可能な治療法について共に考えています。
5-ASA製剤からステロイドにステップアップする場合は、当院では可能な限り入院による導入を勧めています。基本的には、入院でUC患者さんを十分観察しながらステロイド静注を行う方針です。この際、顆粒球吸着療法(GMA)の併用により治療強化をおこない、ステロイドの早期減量と離脱による総投与量の減少を図ります。GMAは月・水・金、あるいは火・木・土の週3回、合計10回施行します【図】。GMA開始に際して、GMAとはどのような治療法なのか、また留意点として穿刺痛などがあることも説明し、患者さんの同意を得る必要があります。GMAの併用によりステロイド投与量の減量3)が期待できる点は、多くの患者さんにおいて、GMA治療を受け入れる理由の一つとなっています。
ステロイドは、UC治療において必要不可欠な薬剤ですが、特にCOVID-19の流行以降、免疫力の低下を不安視されるIBD患者さんも少なくありません。このため、ステロイドを使用する際は、メリットとデメリットを十分に説明し、その上で感染症の発症を予防したり、発症時の兆候を早期に捉えたりするための要点について、適切に伝えることが重要と考えます。
IBD治療におけるSDMの意義および多職種連携について
私はどのような治療を行う場合も、IBD患者さんに十分な説明を行い、話し合って治療方針を策定する共同意思決定(SDM)を重視しています。初診時は、まずUCの病態について説明し、その後、基本的な治療方針としてステップアップ療法について解説します。この際、それぞれの治療のメリットやデメリットについて、薬物療法はもとより非薬物療法であるGMAについても説明します。そして、実際にステップアップが必要になった時点で、改めてその治療法を入念に説明し、患者個々に適した治療について提案しています。
当院でステロイド治療を行う場合、基本は入院となるため、医師のみならず看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床工学技士等による多職種のチームで診療に臨んでいます。この際、消化器特化の病院の強みの一つとして、すべてのスタッフが消化器の疾患に精通している点があげられます。IBD患者さんへの生活指導や食事指導、服薬指導はもとより、入院患者さんの状態に関するコメディカルスタッフから医師へのフィードバックなど、各スタッフの的確な情報が診療を強く支えています。GMA治療の実際は、臨床工学技士や看護師の活躍により円滑に行われています。当院にはGMAに精通した臨床工学技士がおりますので、医師は安心して治療をオーダーしています。
2022年1月より、GMAはUCの寛解維持療法としても保険適用されました。患者個々に適した治療を考える上で、治療の選択肢は多ければ多いほど有利となるため、今後もUC治療において重要な治療法の一つとして非薬物療法であるGMAの役割に期待しています。
1) 原 敏文, 森下 慶一 ほか:日本消化器病学会雑誌. 2019;116(suppl-1):A328. (第105回日本消化器病学会総会, 2019年5月)
2) Omori, T., Hara, T. et al.:Endosc Int Open. 2018;6(6):E669-E675.
3) 下山 孝 ほか:日本アフェレシス学会雑誌. 1999;18(1):117-131.