GMAのこれまでとこれから:GMAのクリニカルパール探求
アダカラムインタビュー記事シリーズ
GMA 20年をこえる臨床知見からの提言
全国の先生方より、消化器および皮膚領域における最新の診療状況を踏まえた上で、様々な視点から顆粒球吸着療法(GMA)の日常診療における活用方法や工夫、メリットや課題についてお話いただきます。
IBD:炎症性腸疾患、UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病、PP:膿疱性乾癬、PsA:乾癬性関節炎(関節症性乾癬)
※先生のご所属先および役職、治療指針等は掲載時点の情報です
岐阜市民病院におけるIBD 診療の実際
岐阜市民病院は、岐阜市の中核病院として消化器内科が充実しており、難治性消化器疾患の基幹施設としての役割を果たしています。私を含め、消化器内科医は内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を実施しながら、炎症性腸疾患(IBD)の診療を行うなど、消化管全般について担当しています。院内においては、他科と積極的に連携を図っており、例えば血液内科と急性移植片対宿主病(GVHD)腸炎の内視鏡所見による診断と治療強化の可能性1) などについて報告しています。
当施設の患者数は、潰瘍性大腸炎(UC)が約130人/年、クローン病(CD)が約50人/年で、他院より紹介いただいているのは難治例が中心となっており、これはCOVID-19の流行下でもさほど変化は認めていません。治療に関しても、JAPAN IBD COVID-19 Taskforceにより全身性ステロイド投与はCOVID-19の重症化との関連が示唆されており、不必要な長期投与は避けるべき、との見解が出されていますが、当院では従来からステロイドは早期に20mg/日まで減量し、3カ月以内の中止を目指していたため、治療方針にも大きな変化は生じませんでした。また、COVID-19のワクチンに関しては、JAPAN IBD COVID-19 Taskforceの見解を参考に、IBD患者に対して積極的な接種を勧めてきました。
岐阜市民病院におけるUC 治療戦略
当施設のUCに対する治療は、基本的に治療指針に則って5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤からステロイド、免疫調節薬へといったステップアップ戦略を採用しています。近年、分子標的薬の相次ぐ開発によって、治療選択肢は増加しましたが、寛解導入後に5-ASA製剤のみで維持できることをベストな目標として治療に臨んでいます。
5-ASA製剤は、メサラジンのpH応答性コーティング製剤の最大用量投与をベースとして、長期安定した場合は患者と相談しながら減量を検討しています。なお、当院における5-ASA不耐の割合は1.6%であり2) 、患者には事前に不耐や副作用のリスクについて説明した上で、最大用量投与を実施しています。
ステロイド依存例や抵抗例といった難治例に対しては、顆粒球吸着療法(GMA)をはじめとして生物学的製剤(Bio)や免疫抑制薬が治療選択肢となります。Bioの選択に関しては、自己注射など投与法についての患者希望も重要ですが、やはり効果と安全性を重視して提案を行っています。例えば、易感染性への注意が求められる高齢者に対しては、腸管選択的に作用するという観点から抗α4β7インテグリン抗体製剤を勧める場合が多くなっています。ただし、各UC治療は患者個々で反応性が大きく異なり、治療指針に則ってステップアップ治療を進めながら、最適な治療を探索しているのが現状です。
現在のUC治療では、目標達成に向けた治療"Treat to Target(T2T)"の概念が広がっており、厳格な粘膜治癒を全ての患者で追求するよりも、患者個々の病態や生活に適した治療を推進することが望まれています。私たちも、特に患者の社会生活の維持を大きな目標として、様々な治療選択肢を提示しながら、患者と一緒に治療方針を決定していく共同意思決定"Shared Decision Making(SDM)"が重要と考えます。
岐阜市民病院におけるGMA の位置付けと活用法
GMAはUC難治例に対する既存治療として、易感染性や併存疾患などから薬物療法を行いにくい場合の選択肢の一つになると私は考えます。当施設におけるGMAを含む血球成分除去療法(CAP)の治療成績について、ステロイド等との併用を除外せずに調査したリアルワールドデータで、CAP週1回治療と集中治療(週2回以上CAPを実施するintensive CAP)との比較検討を報告しています3) 。
GMAの位置付けとして、集中治療(intensive GMA)が重要であり、例えば難治例の入院治療において、ステロイド総投与量の抑制を目指したintensive GMAの併用による治療強化の意義は大きいのではないでしょうか【図 】。ステロイドから次の治療として、Bioの中でも効果発現が緩徐とされる薬剤へステップアップする際に、治療効果を上乗せするブリッジとしてのGMAの役割にも期待しています。
この他にも、担癌患者やサイトメガロウイルス感染症の既往、易感染性やポリファーマシーが危惧される高齢者、安全性の考慮が必要となる特殊な背景を有する患者などに対して、GMAは期待される選択肢の一つになると私は考えます。GMAは、IBD患者の末梢血中から炎症に関与する顆粒球および単球を選択的に吸着除去する非薬物治療であるため、いつでも治療を中止することが可能であり、また薬物相互作用やポリファーマシーの点からも使いやすい治療と捉えています。ただし、GMAは抗凝固剤の使用が必要となりますので、これら薬剤のアレルギー等については十分な注意が必要と考えます。
現在のIBD治療では、薬剤の選択肢が多様化しており、SDMを実践しながら治療を決定する中で、非薬物療法であるGMAはこれまでと同様に今後のIBD治療においても重要な役割を果たしていくものと期待しています。
1) 小木曽 富生 ほか:日本消化器病学会雑誌. 2019;116(suppl-2):A710. (第61回日本消化器病学会大会, 2019年11月) 2) 小木曽 富生 ほか:日本消化器病学会東海支部例会プログラム・抄録集. 2017;(126):30. (第126回日本消化器病学会東海支部例会, 2017年6月) 3) 小木曽 富生 ほか:日本消化器病学会雑誌. 2013;110(suppl-1):254. (第99回日本消化器病学会総会, 2013年3月)