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GMAのこれまでとこれから:GMAのクリニカルパール探求

Adacolumn Clinical Pearl

アダカラムインタビュー記事シリーズ

GMA 20年をこえる臨床知見からの提言

全国の先生方より、消化器および皮膚領域における最新の診療状況を踏まえた上で、様々な視点から顆粒球吸着療法(GMA)の日常診療における活用方法や工夫、メリットや課題についてお話いただきます。

IBD:炎症性腸疾患、UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病、PP:膿疱性乾癬、PsA:乾癬性関節炎(関節症性乾癬)

※先生のご所属先および役職、治療指針等は掲載時点の情報です

佐賀県アダカラム
インタビュー記事シリーズVol. 52

大学病院における高齢者UC診療の現況とGMAの展望

佐賀大学医学部附属病院 消化器内科 講師
坂田 資尚 先生

日本の超高齢社会への移行を背景として、高齢UC患者も増加しています。高齢UC患者は、高齢発症と高齢移行とに分かれますが、両者では病態が異なることが指摘されています。高齢発症では重症度が高いことが特徴の一つとしてあげられ、このような重症もしくは難治性の高齢UC患者に対して治療を強化する際は、癌を含む併存疾患や代謝機能の低下などに対する十分な注意が求められます。そこで今回は、大学病院における高齢者UC診療の現況について、リアルワールドデータを中心に解説いただき、併せてGMAの活用法や今後の展望についてお話を伺いました。

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佐賀大学における消化器診療の概要とIBD診療の実際
 当講座は、内視鏡診療に関して、地域医療連携や緊急内視鏡の体制を整備しており、年間約5,000件の検査と、500件の治療を行いながら、様々な臨床知見を報告してきました。内視鏡診療のガイドラインでは、『非静脈瘤性上部消化管出血の内視鏡診療』『消化器内視鏡の洗浄・消毒』『大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランス』などの作成に携わり、現在も炎症性腸疾患(IBD)内視鏡診療ガイドラインの作成1)に参画しています。

 

 IBDに対しては、2021年に消化器内科/消化器外科/小児科/看護師/薬剤師/栄養士/医療ソーシャルワーカーにより構成されたIBDセンターを開設し、多科多職種連携を重視した集学的治療を行っています。また、地域医療連携の推進に向け、近隣の施設を対象に勉強会や研究会を積極的に開催しています。現在の患者数は、潰瘍性大腸炎(UC)が約270例、クローン病(CD)が約140例です。これまでは重症例や難治例が中心でしたが、UCでは5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤によるコントロールが不十分となった時点での紹介もあり、中等症患者数も増加しています。CDでは、肛門科施設からの紹介が増加しており、IBD診療における地域医療連携の重要性を実感しています。

 

 

高齢者UC診療における近年の傾向と課題
 佐賀県の高齢化率は、2020年の報告において、全国よりやや高い30.4%ですが、高齢者のみの世帯が少ないことが特徴です2)。また、県の医療費総額中、骨折・関節疾患・骨粗鬆症の構成割合が高く、その背景として低栄養傾向が危惧されるBMI≦20の割合が高い点も指摘されています。当センターの高齢IBD患者さんにおいても、整形外科疾患の疼痛に対して非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を服用されているケースは少なくありませんが、実際に当院全体の集計でも、抗凝固薬や抗血小板薬、NSAIDsによる上部消化管粘膜傷害の治療や予防に対するプロトンポンプ阻害薬(PPI)の処方量が増加しています3)。PPIの長期服用は、IBDの発症リスクとなる可能性も報告されており4)、今後の知見の集積が望まれます。

 

 私たちは、実臨床における高齢UCの臨床的特徴と治療状況について調査するため、2022年7月までに当院通院歴のある高齢UC 53例と非高齢UC 219例を対象として、レトロスペクティブに解析を行いました5)。その結果、高齢UC群では"禁煙後"の発症割合が高く、さらに高齢UC群の中でも、高齢移行に比べ高齢発症の方が、"禁煙後"の発症割合が高いという結果でした【1】。IBD診療ガイドライン6)でも、「禁煙による高齢発症のUCが増加傾向にあることも注目すべき点である」と記載されており、高齢者において、禁煙後に下痢などの症状が続く場合は、UCの可能性も考慮すべきではないかと考えます。また、高齢UCでは、加齢に伴う免疫機能の低下による感染症や悪性腫瘍などのリスクを十分考慮したUC治療が求められます。なお、高齢UCでは、慢性持続炎症を背景とした潰瘍性大腸炎関連腫瘍(UCAN)のリスクがありますが、たとえ若年層でも慢性持続例や原発性硬化性胆管炎合併例は、UCANの危険因子となるため、罹患年数に関わらずサーベイランス開始が必要となります7)

 

 高齢UCに対する治療状況に関して、5-ASA製剤・ステロイド・チオプリン製剤・分子標的薬などの薬物療法に、非高齢UCとの間に差は認められませんでした。しかし、顆粒球吸着療法(GMA)を含む血球成分除去療法(CAP)の治療歴を有する割合は、高齢UCで有意に高いことが分かりました【1】。高齢UCの治療においては、併存疾患や易感染性、代謝機能の低下などを考慮する必要がありますが、リアルワールドデータにおいてCAPの治療歴を有する割合が高いことは、それらが反映された結果と推察されます。

 

 

UC治療におけるGMAの位置づけと可能性
 当院のUC治療におけるGMAの重要な活用法の一つとして、ステロイドとの併用による治療強化が挙げられます。例えば入院および外来による寛解導入療法において、ステロイドとintensive GMAを併用することで、速やかな寛解導入とステロイド総投与量の減少8)が期待されます。特に高齢者では、併存疾患やポリファーマシーの観点から、他剤と併用しやすい非薬物療法であるGMAの意義は大きく、生物学的製剤を含めて治療強化が必要な際の重要な選択肢の一つと私は考えます。さらに、患者さんの中でも、治療の安全性などについて、インターネット等を活用して情報収集を行うような方には、共同意思決定(SDM)を行う際に、GMAは受容されやすい印象があります。

 

 CAPの有効性について、私たちのUCにおける検討9)では【2】、臨床的有効性はGMA 82%、白血球除去療法(LCAP) 70%であり、両群間に差は認められませんでした(p=0.15)。また、CAPによる寛解導入後の年代別の5年非再燃率を調査したところ、40 歳未満の22.9%に対して、40歳以上では49.9%と有意に高いという結果でした(p < 0.01)。この結果の解釈は議論のあるところかと思いますが、CAPは高齢UCを含め、年齢を問わず長期的な効果がある可能性が示唆されたものと捉えています。

 

 UCの再燃に関して、CAPによる維持療法の効果を検討したCAPTAIN study10,11)において、52週後の粘膜治癒率が、CAP上乗せ群では対照群に比べ有意に高く、さらに最終評価時までに全例がステロイド離脱に至ったことが示されています。この結果から、特に初回再燃以降は、5-ASA製剤とGMAによる維持療法が選択肢の一つになると期待しています。UCの維持療法では、チオプリン製剤もきわめて有用ですが、高齢者では非高齢者に比べ肝機能障害に注意する必要があり12)、若年層においても非メラノーマ性皮膚癌への影響が米国より報告されており13)、日本人における知見の集積が望まれます。

 

 最後に、今後のIBD診療はサイトカインプロファイルによる治療選択など、IBD患者個々の病態に即した個別化医療の実現が期待されています。その実現までは、特定のサイトカインの働きを抑えるのではなく、炎症に関与する白血球を吸着除去し、炎症局所への細胞浸潤を抑制するなどの作用を有するGMA14)が果たす役割は大きいと考えています。

佐賀大_坂田先生_図表.jpg

1) 厚生労働科学研究成果データベース:難治性炎症性腸管障害に関する調査研究(令和3年度) 治療指針・ガイドラインの改訂プロジェクト「炎症性腸疾患内視鏡診療ガイドライン作成にむけて」 https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202111044A-buntan27_0.pdf (2023年3月現在)
2)厚生労働省:佐賀県後期高齢者医療広域連合の概要(令和2年度) https://www.mhlw.go.jp/content/000762536.pdf (2023年3月現在)
3) Sakata, Y., Tsuruoka, N., Takedomi, H. et al.:Digestion. 2020;101(3):308-315.
4) Xia, B. et al.:Gastroenterology. 2021;161(6):1842-1852.
5) 武富 啓展, 鶴岡 ななえ, 江﨑 幹宏:日本消化器病学会雑誌. 2023;120(suppl-1):A120.(第109回日本消化器病学会総会, 2023年4月)
6) 日本消化器病学会:炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2020(改訂第2版)
7) 坂田 資尚, 鶴岡 ななえ, 岩切 龍一, 藤本 一眞:日本消化器病学会九州支部例会プログラム・抄録集. 2017;(109):90. (第109回日本消化器病学会九州支部例会, 2017年5月/第29回日本大腸検査学会九州支部会, 2022年8月)
8) 下山 孝 ほか:日本アフェレシス学会雑誌. 1999;18(1):117-131.
(利益相反:本研究はJIMROの資金提供を受けて行われた。)
9) Yamasaki, S., Sakata, Y., Yoshida, H. et al.:Digestion. 2019;100(4):247-253.
10) 承認時評価資料:潰瘍性大腸炎の寛解維持に対する血球成分除去療法の有効性の検討
11) Naganuma, M. et al.:J Gastroenterol. 2020;55(4):390-400.
(利益相反:本研究はJIMROからアダカラムの提供を受けて行われた。)
12) Wong, D.R. et al.:Aliment Pharmacol Ther. 2017;45(3):391-402.
13) Long, M.D. et al.:Gastroenterology. 2012;143(2):390-399.
14) 花井 洋行 ほか:日本アフェレシス学会雑誌. 2009;28(1):21-30.