GMAのこれまでとこれから:GMAのクリニカルパール探求
アダカラムインタビュー記事シリーズ
GMA 20年をこえる臨床知見からの提言
全国の先生方より、消化器および皮膚領域における最新の診療状況を踏まえた上で、様々な視点から顆粒球吸着療法(GMA)の日常診療における活用方法や工夫、メリットや課題についてお話いただきます。
IBD:炎症性腸疾患、UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病、PP:膿疱性乾癬、PsA:乾癬性関節炎(関節症性乾癬)
※先生のご所属先および役職、治療指針等は掲載時点の情報です
信州大学医学部附属病院における診療の実際
信州大学医学部附属病院 消化器内科では、カプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡など小腸を含む全消化管に対する内視鏡診療を実施しており、早期がんや腺腫に対する内視鏡的粘膜下層剥離術などの内視鏡治療を年間約600件実施するハイボリュームセンターです。
炎症性腸疾患(IBD)に対しては、生物学的製剤(Bio)やカルシニューリン阻害剤を含む薬物療法と非薬物療法である顆粒球吸着療法(GMA)など、幅広く多様な治療選択肢を用いながら重症例や難治例の治療に臨んでいます。カルシニューリン阻害剤は、血中濃度の管理が重要となりますが、午前中の採血結果が午後には判明する体制を整備しており、速やかな用量調整に寄与しています。
一方、多科連携にも取り組んでおり、消化器外科との合同カンファレンスを開くなど、日頃から綿密なコミュニケーションの構築を図っています。これにより、手術介入を考慮すべきIBD患者に対しては、速やかに消化器外科と連携を行い、適切な手術タイミングや術式等について協議しています。
信州大学医学部附属病院におけるUC治療戦略
近年、潰瘍性大腸炎(UC)治療において多くの分子標的薬が開発され、主にステロイド抵抗性やステロイド依存性などの難治例に対する選択肢が多様化しました。ただし、既存薬の位置付けに大きな変化は生じておらず、むしろ5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤に関しては、高用量化や大腸まで送達させるための製剤工夫が施されており、キードラッグとしての重要性は向上しているものと捉えられます。ステロイドの場合、COVID-19をはじめ感染症への注意は求められるものの、必要な症例では用いるべき重要な薬剤です。
UC治療における分子標的薬の位置付けは、ステップアップ療法に基づき、既存薬が効果不十分な際の選択肢と考えます。なお、クローン病(CD)もステップアップ療法が基本戦略となりますが、UCに比べると早期から強力な炎症抑制が望まれます。その一方で分子標的薬の中での優先順位や選択基準は、未だ確立していないのが実情です。当院においても個々の症例に対して、病勢や患者自身の希望を鑑みて投与を行っていますが、結果的に病勢の早期コントロールの面から抗TNF-α抗体製剤を用いる頻度が高くなっています。
当院では、治療に難渋する症例や腸管外合併症を有する症例の紹介を引き受けており、眼科や皮膚科などと連携を図りながら、集学的治療を行っています。また、重症例や難治例が診療の中心であるため、分子標的薬による治療強化を図る場合が多く、期待される十分な効果が得られやすい一方で、感染症やパラドキシカル反応、さらに予期せぬ副作用などへの注意が必要となります。実際に、分子標的薬やステロイド治療の際に、真菌感染症を併発した例もあり、抗真菌薬を投与しながら併せてIBDの炎症抑制も求められるため、代替治療の模索を含め治療に難渋した経験があります。
信州大学医学部附属病院におけるGMAの位置付け、活用法
IBDに対する集学的治療の中で、当院では非薬物療法であるGMAを、UCのステロイド抵抗例を中心に、治療選択肢の一つとして活用しています【図1】。UCのステロイド依存例に対しては、2022年のGMAのUC寛解維持療法に対する保険適用以降、寛解導入から維持までを見据えた治療オプションになり得るものと期待しています。その他には、抗IL-12/23抗体製剤や抗α4β7インテグリン抗体製剤の投与開始時に、それらの効果発現までの期間を補う治療強化の目的で、GMAを併用することも選択肢の一つとして捉えています。またGMAは、免疫抑制作用を有する薬剤の多剤服用例や高齢者、妊婦、小児といった特別な背景を有するIBDに対する治療成績が報告されており1)、安全性の考慮が必要な患者に対しても検討すべき治療法であると考えています。
IBD治療において、副作用の兆候をIBD患者自らが察知するためにも、安全性に関する説明がきわめて重要となります。このインフォームドコンセントの際に、非薬物療法ということでGMAはIBD患者に過度の不安を与えにくい印象がありますが、それでも副作用やルート確保など留意すべき事項の説明は必要です。当院では、GMAの施行は腎臓内科に依頼しており、血液浄化療法のエキスパートが治療し、その結果を情報共有しています。
ただし、大学病院である当院の実情として、治療スペースの関係上、GMAの施行が週二回に限られるため、地域の透析クリニックとの積極的な連携を図りたいと考えています。特にUCに対する寛解維持療法を鑑みると、夜間や土曜日のGMA施行が可能な施設との連携が患者の治療同意へのポイントになるのではないでしょうか。GMAはIBD治療において今後も重要な選択肢の一つであり、地域医療連携の推進によって治療環境が整うことで、IBD患者がより受け入れ易い治療オプションとなることに期待しています。
信州大学医学部附属病院における小児IBD患者の移行期医療への取り組み
今後のIBD診療においては、地域医療連携に加え、多科および多職種連携が、より一層重要となります。その代表的な一つが、小児IBD患者の移行期医療における連携であり、当院では小児科を中心に『IBD移行期支援の会』を設立しました【図2】。この会では、多職種に加え小児科から消化器内科への移行を経験した患者にも参加いただき、小児IBD患者とご家族を対象に、疾患に対する理解や不安の軽減についてサポートを行っています2)。
私も消化器内科医として、本会で小児IBD患者に接しており、事前に面識を持ってもらうことで、将来的に消化器内科を訪れた際の不安軽減に繋がれば、と考えています。また、小児科から消化器内科へ移行する際には、自らの言葉で症状や副作用について主治医へ伝え、治療や生活上の希望も話し合う必要があるため、自分の意思を伝えることの重要性についても説明しています。進学や就職を機に移行される場合もありますが、事前に小児科と消化器内科を並行した受診も有用であり、私たち消化器内科からも小児科と積極的に連携を図っていきたいと考えています。
1) Motoya, S. et al.:BMC Gastroenterol. 2019;19(1):196.
2) 中山 佳子 ほか:日本小児栄養消化器肝臓学会雑誌. 2018;32(1):45. (第44回日本小児内視鏡研究会, 2017年7月)