GMAのこれまでとこれから:GMAのクリニカルパール探求
アダカラムインタビュー記事シリーズ
GMA 20年をこえる臨床知見からの提言
全国の先生方より、消化器および皮膚領域における最新の診療状況を踏まえた上で、様々な視点から顆粒球吸着療法(GMA)の日常診療における活用方法や工夫、メリットや課題についてお話いただきます。
IBD:炎症性腸疾患、UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病、PP:膿疱性乾癬、PsA:乾癬性関節炎(関節症性乾癬)
※先生のご所属先および役職、治療指針等は掲載時点の情報です
平和会 吉田病院 消化器内視鏡・IBDセンターにおけるIBD診療の実際
私は、奈良県立医科大学で40年近く炎症性腸疾患(IBD)診療に携わってきました。その日常診療の中で、IBD患者数は顕著に増加しているにもかかわらず、患者数に対して専門施設が少ないと感じていました。奈良県は面積の2/3が山間部であり、人口の半数は北和地区に集まっています。人口の多い北和地区にはIBD患者も多いと考えられるのですが、IBD専門施設がほとんどありませんでした。そこで2016年3月の退職を機に、奈良市でIBD専門施設を立ち上げることを決意し、2016年5月に当センターを開設しました。
名称を炎症性腸疾患センターでなく、一般の方に分かりにくいIBDセンターとしたのは、「ここに専門医がいますよ」と患者さんに伝え、受診意欲と医療提供の合致を目指す、いわばサーチ理論に基づいてのことです。さらに、IBDという名称を一般の方にも認知して頂きたいとの思いもありました。もちろん地域貢献も大切ですので、消化器診療、特に消化器がん検診に注力するため、最終的に消化器内視鏡・IBDセンターとの名称にしました。
当IBDセンターは、IBDの診断、検査、内科的治療のみならず、肛門手術を含む外科治療まで一貫して行っております。また上部消化管内視鏡検査、大腸内視鏡検査はもとより小腸カプセル内視鏡検査、ダブルバルーン内視鏡検査、小腸透視、通常のCT以外に大腸CT検査等必要な画像診断やその評価も、連携施設に依頼することなくすべて私たち自身が随時行っています。
IBD患者は発症時には下痢、腹痛、血便、肛門痛などありふれた消化器症状で一般の診療所や病院を受診されるので、発症早期に当センターに来られる方はほとんどなく、多くは一般の診療所や病院からの紹介となっています。最近は、IBD患者自らがインターネットなどで当センターを知り、来院される方が散見されるようになってきました。ここに専門医がいますよと旗を振っている効果が少しは出てきたのかと感じています。
IBD治療においては、病気に遠慮せず、自分が望む生活が出来るよう支援することを目標にしています。そして治療指針やガイドラインにしたがった治療の実施を原則としています。ただ、IBD患者の病状だけでなく、置かれている社会的背景、患者自身の希望(今、何を望んでいるか、将来どのような生活を望んでいるか)なども個々に異なるので、一緒に話し合い、相談しながら治療選択を行うようにしています。
UCに対する治療選択肢の多様化とGMAの位置付け
内科治療の進歩により、潰瘍性大腸炎(UC)の治療選択肢が増えています。UCは通常急性に変化し、急速に症状が悪化して苦痛が生じやすいため、できるだけ速やかに症状改善を図るようにしています。UCの入院治療は減少しつつありますが、重症例では生命予後に影響する場合もあるため、入院で強力な治療を行います。ガイドライン等に則って、まずは5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤とステロイド 1mg/kg/日の静脈投与を開始します1)。この際、血管確保が困難でなければ、週2回の頻度で顆粒球吸着療法(GMA)を併用します。なお、初発例で指定難病の医療給付を未申請の場合は、ソーシャルワーカーと相談しながら申請書を提出して、治療を進めることとなります。
治療開始後1週間以内に病状の改善が得られない場合は、第二選択薬を検討します。その際の選択基準は、即効性および有効性、安全性に加え、医療経済的視点も加味しています。また、第二選択の治療を実施する際には、それに不応だった場合のことを想定しておき、複数の免疫抑制薬の使用による感染のリスクや手術適応についても念頭に置いて治療に臨んでいます。GMAに関しては、いずれの治療薬とも併用可能と私は考えています。効果判定は、GMA 6回施行後に上部用スコープを用いて前処置なしの短時間で行うS状結腸内視鏡検査によって、GMA治療を継続するか否かを評価しています。
中等症のUCでも、ステロイド治療で速やかな症状改善を図っています。排便回数が10回/日以上で食事により腹痛を誘発するような場合は入院治療を行いますが、原則的には外来治療です。全大腸型では5-ASA製剤高用量にステロイド内服 30~40mg/日を用います。直腸炎型や左側大腸炎型では、ステロイド内服よりも局所製剤である注腸製剤やフォーム(泡)製剤を用いることが多くなっています。ただし、重症に近い中等症では排便回数が多いことから、局所製剤の効果が限られてしまい、かえって苦痛となるためステロイド内服を選択しています。
重症に近い中等症およびステロイド投与1週間後の効果が乏しいUC患者の場合は、intensive GMA(GMAを週2回実施)の併用が選択肢の一つになると私は考えます。当センターでは、外来によるGMA施行も可能ですが、仕事や学校で日中の来院が難しい場合は、夜診としてGMA実施可能な施設と地域医療連携を行っているため、速やかに紹介しています。この際も、GMA 6回施行後に内視鏡による効果判定を実施しています。
IBD治療における他科、多職種連携の意義
IBDの腸管外合併症や薬剤の副作用により他科に相談することは少なくありません【図】。特に高齢者では、基礎疾患として生活習慣病や循環器疾患、呼吸器疾患、腎機能障害等を有する場合、これらの併存疾患を診療している医師(かかりつけ医)との情報交換は欠かせません。
長いIBD診療経験を通じて、IBD患者の置かれている社会的状況の厳しさを知るにつれ、医師だけではIBD診療は不十分との認識が次第に強くなりました。IBD患者は、病状だけではなく、家族との関係、仕事や学校の問題、経済的問題、将来の不安など多くの悩みをかかえています。それがアドヒアランスや治療効果に影響を与えています。短時間の診療の間に、IBD患者から医師へ悩みを打ち明けるのは難しく、医師に否定されたり、聞き流されたりすることを恐れています。このような際に、話を聞いて貰えるカウンセラーや看護師などがいると、IBD患者のみならず医師にとっても非常に助かります。医師に言いにくい事情をヒアリングしてもらうことで、IBD患者個々の悩みや生活に寄り沿った治療に寄与するものと考えます。
また、羞恥心をいだきやすい肛門診察においては看護師の立会が重要であり2)、その他にも食事指導は栄養士の助けが、薬剤の投与法や副作用の不安には薬剤師の助けが必要です。急な再燃時の緊急検査には診療放射線技師、消化器内視鏡技師、臨床検査技師に協力を仰ぐこととなります。GMAの適切な施行には臨床工学技士の役割も重要です。いずれにしろ、医師だけではなく、顔見知りの気の置けないスタッフがいると、IBD患者の安心につながるものと期待しています。
今後のGMAにおける展望
IBDの治療選択肢が増えてきた一方、かえって選択に迷う状況が生じています。また、過度な免疫抑制は日和見感染のリスクを上昇させます。これらを背景として、安全性の面に加え、比較的短期間で治療効果を評価できるGMAの意義があるのではないかと私は考えます。例えば、ある生物学的製剤(Bio)が不応で他の薬剤にスイッチしても、前Bioの影響が残るため、一定期間は上乗せ治療の形となってしまい、複数の免疫抑制剤同時使用による日和見感染リスクが危惧されます。この点、非薬物療法であるGMAは血中薬物濃度を考慮する必要がなく、不応の場合も治療を中止すれば、速やかに他の選択肢へと切り替えることが可能な治療法であり、また他薬剤とも併用可能な選択肢の一つとして重要と私は考えます。
今後、GMAに関しては、Bioが効果減弱となった際に併用することで治療効果の上乗せや、次の薬剤にスイッチするまでのブリッジなどに期待しており、知見の集積が望まれます。さらに、少数例ながら抗インテグリン抗体製剤の効果減弱例に対する抗インテグリン抗体製剤とGMAの併用療法の有効性および安全性に関する報告もあり3)、様々な薬剤との併用による効果の検証にも期待しています。
1) 藤井 久男:日本医事新報. 2015;(4749):57-58.
2) 藤井 久男 ほか:日本臨牀. 2018;76(増刊号3):261-269.
3) Rodríguez-Lago, I. et al.:J Clin Apher. 2019;34(6):680-685.