JIMROJIMRO

医療関係者の方へ

GMAのこれまでとこれから:GMAのクリニカルパール探求

Adacolumn Clinical Pearl

アダカラムインタビュー記事シリーズ

GMA 20年をこえる臨床知見からの提言

全国の先生方より、消化器および皮膚領域における最新の診療状況を踏まえた上で、様々な視点から顆粒球吸着療法(GMA)の日常診療における活用方法や工夫、メリットや課題についてお話いただきます。

IBD:炎症性腸疾患、UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病、PP:膿疱性乾癬、PsA:乾癬性関節炎(関節症性乾癬)

※先生のご所属先および役職、治療指針等は掲載時点の情報です

福岡県アダカラム
インタビュー記事シリーズVol. 16

IBD診療における地域医療連携の重要性とGMA導入の実際

九州労災病院 消化器(消化管)内科
西嶋 健一 先生

IBDに特化した診療を行うためのIBDセンターを有する病院は都市部に集中する傾向があり、そこまでの通院が難しいIBD患者も数多くいらっしゃいます。そこで今回は、IBD診療における地域医療連携の重要性と実際の取り組みについて伺いました。

記事を見る

九州労災病院におけるIBD診療の実際

 当院は北九州市小倉南区にある北九州医療圏東南部の中核病院です。消化器内科では、内視鏡を使った検査や治療に注力しており【1】、私自身も内視鏡診療を中心に据え、臨床で得られた知見を報告しています1),2),3)

 当院では、IBDの確定診断だけではなく、重症度の評価、治療効果の判定、発癌のサーベイランスを目的として、必要時に内視鏡検査を実施しています。北九州地区においては、地域住民の高齢化もあいまって、高齢IBD患者数が増加を続けている印象があります。当院は、都市部の病院のIBDセンターのように決してハイボリューム施設ではありませんが、都市部までの通院が負担となるような高齢IBD患者等の診療は、地域医療を担う施設としての責務と考えています。

 当院では他の医療機関との連携を推進しており、治療に難渋する症例は、福岡市の福岡大学病院や九州大学病院と連携して治療に臨みます。一方、潰瘍性大腸炎(UC)で長期間寛解を維持している場合は、近隣の消化器を専門とする診療所に逆紹介することも少なくありません。連携する際は『顔が見える連携』を重視しており、コミュニケーションが良好な医師に紹介し、何かあったらすぐに当院に連絡してもらうようにしています。

 

Bio登場後のGMAの意義

 近年、生物学的製剤(Bio)を含む分子標的薬の登場によって、IBD治療の選択肢が広がりました。ステロイドに対して抵抗あるいは依存を示す患者にはBioを使うという流れが優勢になっているように感じますが、Bioは一度使い始めたらその後も継続することが必要な薬剤ですので、Bioをいつ開始するかは慎重に決める必要があります。

 このような状況から私は、Bio投与前の選択肢の一つとして顆粒球吸着療法(GMA)の意義が大きいのではないかと考えています。ステロイドが使いにくいIBD患者に対して、GMAは代替治療の一つとして役割を担っています。さらに、安全性の考慮が必要な妊婦や高齢者、小児、併存症など特殊な背景を有する患者に対する治療選択肢の一つと私は評価しています。今後、様々な新薬が登場しても、非薬物療法であるGMAの役割は変わらないのではないでしょうか。

 また、UC治療においては、炎症を抑えて発癌リスクを低下させること、そしてUC患者が日常生活に支障を来たさないようにすることが重要です。必ずしもすべてのUC患者で粘膜治癒を目指すわけではありませんし、現状ではそもそもそれは不可能です。患者さんによって治療目標は異なるのですから、選択肢は多ければ多い方が良いと考えます。

 

透析施設と連携してGMAを施行

 私が以前勤務していた病院では、施設内でGMAが施行可能でしたが、当院は透析室を持たないため、赴任当初はGMAを施行できませんでした。そこで、2020年1月より当地域における透析医療の担い手である腎臓病・透析治療の専門クリニックと連携を開始しました。

 その契機となったのは、サイトメガロウイルス(CMV)陽性のUC患者でした。ステロイドは投与しにくく、Bio導入も躊躇する状況であったため、GMAを施行したいと思い、こちらのクリニックに打診しました。院長に直接面談して当方の意図を伝え、院内を見学させてもらい、その結果良い返事をいただくことができました。GMAの治療連携を進めるにあたり、現場スタッフとの情報共有、意思疎通も欠かせないため、スタッフを対象とした説明会を開催したり、透析を担当している医師や看護師、臨床工学技士らに個別に説明を行いました【2】。GMAの導入にあたっては、腎不全とは異なるIBDの疾患特性を十分理解された上で施行できる体制が重要であると私は考えます。

 GMAの施行は基本的に10回ですが、1回ごとに先方からレポートをFAXで送ってもらうようにし、当院でもIBD患者の病態を確認しています。そしてGMAが5回終わったところで、継続するかどうかを当院の内視鏡検査で評価し、その結果を先方に伝え、電話をすれば患者さんはその足で6回目のGMAを受けに行くことも可能です。このように両施設が常に併診するような形になっており、密に連携を行っています。IBD患者にとっては、GMAの施行場所がたまたま外部の建物にあるというイメージかと思います。

 これまで両施設が連携してGMAを施行したのは9症例で、中には再燃後に再びGMAを施行したUC患者もいます。連携から1年が経過したため、近々両施設でこれまでの取り組みについて振り返る場を設ける予定です。当院のように、GMAを行いたいが透析室を持たない施設も数多くあると思います。しかしそのために、GMAが治療選択肢から外れてしまうのはIBD患者の不利益につながります。実際に患者背景等の面からGMAを必要とするケースは決して珍しくないため、全国的にもIBD診療施設と透析施設との連携が進み、より良い疾患コントロールに寄与することを期待しています。

九州労災病院_西嶋先生_図表.jpg

1) 西嶋 健一 ほか:Gastroenterological Endoscopy, 56(Suppl. 1), 1334, 2014 (第87回日本消化器内視鏡病学会総会, 2014年5月)
2) 西嶋 健一 ほか:Gastroenterological Endoscopy, 57(Suppl. 1), 975, 2015 (第89回日本消化器内視鏡学会総会, 2015年5月)
3) 西嶋 健一 ほか:Gastroenterological Endoscopy, 61(Suppl. 1), 977, 2019 (第97回日本消化器内視鏡学会総会, 2019年5月)