GMAのこれまでとこれから:GMAのクリニカルパール探求
アダカラムインタビュー記事シリーズ
GMA 20年をこえる臨床知見からの提言
全国の先生方より、消化器および皮膚領域における最新の診療状況を踏まえた上で、様々な視点から顆粒球吸着療法(GMA)の日常診療における活用方法や工夫、メリットや課題についてお話いただきます。
IBD:炎症性腸疾患、UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病、PP:膿疱性乾癬、PsA:乾癬性関節炎(関節症性乾癬)
※先生のご所属先および役職、治療指針等は掲載時点の情報です
大腸肛門病センター高野病院における消化器診療の実際
当院では、大腸肛門を中心とした高度専門医療を提供しています。年間では、下部内視鏡検査 約7,500件、ポリペクトミー約3,500件、EMR/ESD 150件を行っており、炎症性腸疾患(IBD)については潰瘍性大腸炎(UC)約550例、クローン病(CD)約300例を診療しています。肛門疾患を得意とする施設の特性上、CD患者さんを数多く紹介いただきますが、その背景として地域医療連携を積極的に推進していることがあげられます。具体的には、連携先を一軒一軒回りながら、当院の医師が得意とする診療の説明や、逆紹介の必要性などについて意見交換を行うことで、より実践的な顔の見える連携を図っています。またCOVID-19の流行前は、医師のみならず多くの職種が、年間160件を超える学会発表を行っていたことも、顔の見える医療連携に寄与していると考えます。
現在、下部消化管診療は、IBDはもとより便秘や便失禁などにおいても新規治療の開発によって大幅な進歩を遂げています。それだけに、例えば多くの診療科で遭遇する便秘に対しても、刺激性下剤の漫然とした投与を避けた上で、食事指導や運動療法、排便姿勢指導に対して不応であった場合など、適切なタイミング1)における専門施設への紹介が望まれます。便失禁に関しては、仙骨神経刺激療法や脛骨神経刺激療法2)などの登場に加え、近年は当院も参加している"骨格筋由来の細胞移植療法"の治験が行われており、今後の更なる進展が期待されます。なお、幹細胞治療はCDの複雑痔瘻に対して薬事承認されており、当院でも熊本県唯一の治療施設として、これら新たな再生医療に取り組んでいます。
IBDをはじめとした疾患啓発活動の意義と自然災害への準備
当院では、患者さんの知りたい気持ちに寄り添うことを目的として、疾患啓発および疾患教育活動に注力しています。COVID-19流行前の2019年には、医師や薬剤師、栄養士、理学療法士など幅広い職種による講演会や市民公開講座を約100回実施しました。また、患者支援センターでは、大腸肛門専門施設としての経験と知識に基づいて、多くの職員が分担しながらLINEやメール、対面、電話、FAXによる無料相談体制を整備し、匿名相談も受け付けています。さらに、病院関連のYouTubeチャンネルを2つ開設し、消化器疾患の病態解説をはじめとして、IBD患者さん向けの食事レシピやアニメキャラクターの動きを取り入れた運動療法など、楽しく学べることを目指した配信を行っています。
このような疾患啓発活動は、疾患の早期発見や患者さんのアドヒアランスおよび安心感の向上に寄与することが期待されます。例えば、直腸や肛門に突然強い疼痛が生じ、数秒から数十分で消失する"消散性直腸肛門痛"に悩む患者さんは少なくありませんが、認知率の低さから受診せずに我慢したり、消化器科以外を受診して心理的要因による症状と判断される場合も散見されます。しかし、消散性直腸肛門痛は仙骨神経のブロック療法が有効な疾患であり3)、実際に当院の疾患解説Webサイトから医療相談を行い、治療に結び付いた患者さんも存在するため、やはり疾患啓発の意義は大きいと考えます。
IBDと同様に増加を続ける大腸癌に対しては、疾患啓発により検診の受診率向上が望まれます。当院は2015年より、熊本県合志市との共同プロジェクトを開始し、当時20%台であった大腸癌検診受診率の倍増を図りました。最初に市民アンケートを行い、受診を阻害する背景について調査したところ、「受診機会が無い」との回答が約半数を占めたため、郵送による大腸がん検診セットの送付を行い、加えて広報誌などによる積極的な啓発活動を行ったところ、現在では受診率50%を達成しています。このような活動に加え、当院所有の内視鏡検診車2台が熊本県内を巡回しており、院内と院外の双方から大腸癌の早期発見と撲滅を目指しています。
検診プロジェクトが発足した翌年の2016年、最大震度7の熊本地震が発生し、その後も活発な余震活動が続きました。私たちも避難所を訪れ医療支援を行いましたが、便秘に悩む方が多い印象でした。そこで、当院の受診患者1,707名を対象に、震災後の排便状態の変化に関するアンケート調査を行ったところ、地震1カ月後に排便回数の低下と便の硬化が認められ、地震5カ月後に回復していました【図1】。また、被害が大きかった場合や避難所生活を過ごした場合は、より排便状態が悪化していました。
このような排便状態の変化は、IBD患者さんにとっても大きな課題となり、避難所生活を余儀なくされた場合、精神的ストレスや脂肪の多い食事、睡眠不足、そしてトイレの問題などから病態の悪化が予測されます。従って災害発生時に備え、冷蔵管理が必要な注射薬を含む薬剤および医療機器の保管体制や、IBDに適した食事と十分な飲料水の確保などの対策を通常時に整備しておく必要があります。中でもオストメイトのストーマ管理はきわめて重要となるため、私たちは災害発生時の安否確認と医療機関およびストーマ装具販売店への連絡を効率的に行うLINEアプリ『オストメイトまもるモン【図2】』を、クラウドファンディングも活用しながら開発しました4)。まずは熊本県内での運用となりますが、地震や台風、線状降水帯などは全国至る所で発生しているため、段階を踏んで九州から全国へと範囲を拡大させていきたいと考えています。
IBD診療における多職種連携の意義とGMAへの期待
便秘や便失禁に対して新たな治療が登場した後も、リハビリテーション5)や栄養指導など集学的治療の継続が強く望まれます。IBDも同様であり、分子標的薬の登場後も非薬物療法である顆粒球吸着療法(GMA)や栄養療法の意義は大きく、それらを担う臨床工学技士(CE)や栄養士には、IBD患者さんへの病勢などのヒアリングとそのフィードバックが期待されます。特にGMA施行中の約1時間は、ヒアリングの良い機会であり、それだけにCEにもIBD病態の把握が求められます。多職種連携の推進のため当院では、院内勉強会において持ち回りで講師を務めることや積極的な学会発表により、疾患への理解を深めています。
当院においてGMAは、安全性への配慮が必要となる高齢や併存疾患など特別な背景を有する患者さんに対して、中心的な治療法の一つとして活用しています。また、ステロイドをはじめ他薬剤との併用による治療強化もGMAの重要な役割の一つと考えます。熊本大学とはGMA施行依頼を受けるなどの医療連携体制を構築しており、地域の患者さんに寄り添った医療の提供を目指しています。
現在、前述のCDの複雑痔瘻に対する再生医療を含め革新的なIBD治療が数多く開発されています。また、肛門病変に対する分子標的薬の局注など、新たな投与法に関する知見も集積されつつあります。今後は根治的なIBD治療法が開発される可能性もありますが、それまではGMAをはじめとした集学的治療によって、有効性と安全性のバランスを考慮した治療戦略が重要と考えます。
1) 高野 正太:Medical Practice. 2020;37(2):287-294.
2) 高野 正太, 山田 一隆:日本大腸肛門病学会雑誌. 2016;69(5):233-238.
3) Takano, M.:Dis Colon Rectum. 2005;48(1):114-120.
4) 福永 光子 ほか:日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会誌. 2023;39(1):283. (第40回日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会総会, 2023年2月)
5) 高野 正太:J Clin Rehabil. 2022;31(9):869-874.