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GMAのこれまでとこれから:GMAのクリニカルパール探求

Adacolumn Clinical Pearl

アダカラムインタビュー記事シリーズ

GMA 20年をこえる臨床知見からの提言

全国の先生方より、消化器および皮膚領域における最新の診療状況を踏まえた上で、様々な視点から顆粒球吸着療法(GMA)の日常診療における活用方法や工夫、メリットや課題についてお話いただきます。

IBD:炎症性腸疾患、UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病、PP:膿疱性乾癬、PsA:乾癬性関節炎(関節症性乾癬)

※先生のご所属先および役職、治療指針等は掲載時点の情報です

大分県アダカラム
インタビュー記事シリーズVol. 40

地域中核病院におけるIBD診療の実際とGMAの展望

大分赤十字病院 消化器内科 副部長
髙橋 晴彦 先生

地域の急性期医療を担う中核病院において、IBD診療では軽症のみならず重症および難治例への対応が強く求められます。このため、手術適応を見据えた外科との連携や腸管外合併症発症時の皮膚科や整形外科との連携が重要となり、さらに栄養療法やGMAなどの非薬物療法も併せて、集学的治療の実施が望まれます。そこで、今回は地域中核病院におけるIBD診療の実際や治療上の留意点、今後の展望などについて伺いました。

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大分赤十字病院消化器内科の特徴
 当院は大分市の中心部に位置する急性期中核病院です。消化器内科では、食道癌・胃癌・大腸癌に対して積極的にESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)を導入しており、県内において施行例が多い施設のひとつです。

 患者数が増加傾向にある炎症性腸疾患(IBD)の診療にも注力しており、現在当院には、潰瘍性大腸炎(UC)約100名、クローン病(CD)約50名が通院中です。IBD疑いも含め、患者さんを紹介いただくこともありますが、病態が落ち着けば基本的に紹介元の病院へ逆紹介しています。

 初発例の場合は内視鏡により重症度や罹患範囲などを正確に診断し、的確な治療を行うよう心がけています。CDにおいては小腸造影検査を行っており、必要に応じて検査結果をサマリーにまとめて、患者さんと紹介元の先生にお渡しすることもあります。

 IBDは集学的治療を求められる疾患であるため、院内においては他科との連携を重要視しています。患者さんは関節炎や皮膚病変などの腸管外合併症を併発していることが多く、その場合はリウマチ科や皮膚科に診断を仰ぎ、併診しています。重症のUC患者さんを紹介された際は早めに外科へ連絡を入れておき、内科的治療に不応の場合は速やかに手術へ移行できるような体制を整えています。

 

高齢UC患者の増加
 UCは比較的若年で発症し、10歳代後半から30歳代前半に好発する1)とされていますが、私の前任地である福岡大学筑紫病院にてUCの発症年齢を調査した結果2)、第一のピークを15~29歳、第二のピークを55~64歳に認め、発症年齢分布は若年者と中高年者の二峰性を示し【】、従来から報告されているような欧米と同様の分布様式となりました。このような年齢分布の高齢化の要因として、高齢発症者の増加が考えられます。また、UCを発症した患者さんでは、非禁煙者に比べ禁煙者の平均年齢が有意に高かったことから、禁煙歴が高齢発症のリスク因子となる可能性が示唆されました3)

 これら高齢発症UCの増加に加え、若年発症後の高齢移行UCも増加しており、高齢UC患者さんの治療は、より一層重要性が高まっています。高齢者は併存疾患が多く、腎機能など予備能の低下や易感染性を呈しやすいため、治療においては年齢を考慮した治療方針の策定が強く求められます。例えば、ステロイドや生物学的製剤(Bio)はIBD治療において不可欠な薬剤ですが、高齢者に投与する際は十分な検討が望まれます。また担癌患者、サイトメガロウイルス(CMV)感染が疑われる症例などにも注意が必要です。これらの背景を有する患者さんに対しては安全性への配慮が重要であり、当院では非薬物療法である顆粒球吸着療法(GMA)も治療選択肢のひとつと位置付けています。

 

大分赤十字病院におけるUC治療の基本方針
 当院におけるUC治療は、基本的にIBD研究班の治療指針に準じて進めています。分子標的薬を含めて様々な治療薬が登場していますが、UCの基本治療薬は5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤であることに変わりはなく、罹患範囲や服薬アドヒアランスを考慮して患者個々に適した5-ASA製剤を選択しています。近年は5-ASA製剤不耐例の増加が報告されており4)、当院においても23%に認められたことから、5-ASA製剤使用前には服薬の重要性と併せて、不耐に関する注意点について説明を行っています。IBD患者さんは若い方が多く、仕事や学校のため「なるべく入院は避けたい」と希望される方も少なくありません。従って、直腸炎型や左側大腸炎型の患者さんに対しては局所製剤も活用しています。

 5-ASA製剤で寛解が得られなかった場合は、適切な初期投与量のステロイドで寛解導入を図ります。ステロイドはUC治療において重要な薬剤ですが、特に高齢者は感染症や併存疾患への影響を考慮する必要があり、JAPAN IBD COVID-19 Taskforceの提言通り、使用の際には感染リスクなどの留意点を患者さんへ伝えています。ステロイドは漫然と投与せず、3カ月以内の服薬中止を方針としています。従来であれば、ステロイド40mg/日以上が必要と判断される重症度のUC患者さんに対して、入院によりまずGMAを試してみることも最近の選択肢の一つとなっています。

 また、チオプリン製剤は寛解維持期において重要な薬剤ですが、その一方で副作用の懸念があります。ステロイド依存例に対してはチオプリン製剤を用いていますが、その前に必ずNUDT15 遺伝子多型を測定しています。当院のデータでは、チオプリン製剤内服者の35.5%に何らかの副作用を認め5)、変異型ホモ(Cys/Cys)のみならずヘテロ型(Arg/Cys)においても4/5例に副作用が発現していたことから、Arg/Cys例に対する投与が必要な際は、治療指針記載用量の半量から投与を開始し、加えて副作用の観察を十分に行っています。

 UC難治例に対する治療は、Bio等の選択肢の増加により、治療成績の向上が導かれました。ただし、Bioが適した患者像や投与のタイミング、Bioの中での選択基準などに明確な指標は確立されていないのが実情です。当院ではIBD患者さんの年齢やライフスタイル、可能な通院頻度、自己注射を含む投与法などを話し合い、SDM(共同意思決定)により治療方針を決定しています。

 

大分赤十字病院におけるGMA施行の実際
 当院では、基本的に入院患者さんに対してGMAの施行を検討します。例えば、UCの初発や再燃時、速やかにステロイドやBio治療を始めたい場合であっても、結核、B型肝炎、CMV感染症、感染性腸炎などの感染症に対する便培養といったスクリーニング検査が必要であり、治療開始までに時間を要することとなります。そこで、安全性への配慮が必要となる場合は先行して、非薬物療法であるGMAをintensive(入院中は週3回)で実施する場合が多くなっています。そして、検査結果を待っている間にGMAの効果が認められた場合はそのままGMAを継続し、薬物治療の開始を遅らせながら経過を観察する場合もあります。効果不十分と判断した場合は、他の治療との併用あるいはGMAの中止を検討します。

 GMAの利点として、他剤との併用が可能であることや、薬物血中濃度を考慮する必要がないため、その後の治療に影響を与えずいつでも中止できることが挙げられると考えています。また、入院中は週3回のIntensiveで行うと、1週間で効果の有無が判定できる点も治療方針を決定する上で有用です。

 安全性の観点より、前述した高齢者、妊婦、小児、あるいはCMV感染の疑いがある場合や、担癌患者さん、NUDT15 遺伝子多型検査によりチオプリン製剤の使用が躊躇される患者さんに対して、GMAは治療選択肢の一つになると私は考えます。またCOVID-19流行下においては、GMAを併用することでステロイドの総投与量の減量が期待されること6)、intensive GMAを用いて治療強化することで早期に寛解導入へ導き7)、入院期間の短縮を図れることもメリットであると捉えています。Bio導入を先送りしたり、Bio効果減弱時にGMAを併用して効果を維持すること8)で治療選択肢の温存も期待できます。

 UCに対してGMAのみで寛解導入に成功した場合、これまで寛解維持療法は5-ASA製剤あるいはチオプリン製剤で行っていました。今後はUC寛解維持療法でもGMAが使えるため、維持療法の選択肢が広がりました。GMAによる維持療法で課題となるのは、仕事や学校で日中時間を確保できない患者さんへの対応であり、それに応じた体制作りが今後必要になるでしょう。GMA治療における透析クリニックとの連携をはじめとして、IBDに対する地域医療連携のさらなる推進に期待しています。また当院ではGMAの施行時に血管確保が困難な場合であっても、透析での手技経験を活かして対応しています。患者個々の要望に応えるべく、治療環境の整備や手技を工夫することで、患者さんにとってGMAがより受け入れやすい治療オプションとなるのではないでしょうか。

大分赤十字病院_高橋先生_図表.jpg

1) 日本消化器病学会:炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2020(改訂第2版)
2) 髙橋 晴彦 ほか:臨牀消化器内科. 2011;26(8):1101-1106.
3) Takahashi, H. et al.:J Gastroenterol Hepatol. 2014;29(8):1603-1608.
4) Hiraoka, S. et al.:J Gastroenterol Hepatol. 2021;36(1):137-143.
5) 下森 雄太, 髙橋 晴彦 ほか:日本消化器病学会九州支部例会プログラム・抄録集. 2021;117:122. (第117回日本消化器病学会九州支部例会, 2021年6月)
6) 下山 孝 ほか:日本アフェレシス学会雑誌. 1999;18(1):117-131.
7) Sakuraba, A. et al.:Am J Gastroenterol. 2009;104(12):2990-2995.
8) Yokoyama, Y. et al.:J Crohns Colitis. 2020;14(9):1264-1273.