GMAのこれまでとこれから:GMAのクリニカルパール探求
アダカラムインタビュー記事シリーズ
GMA 20年をこえる臨床知見からの提言
全国の先生方より、消化器および皮膚領域における最新の診療状況を踏まえた上で、様々な視点から顆粒球吸着療法(GMA)の日常診療における活用方法や工夫、メリットや課題についてお話いただきます。
IBD:炎症性腸疾患、UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病、PP:膿疱性乾癬、PsA:乾癬性関節炎(関節症性乾癬)
※先生のご所属先および役職、治療指針等は掲載時点の情報です
旭川医科大学におけるIBDに対する研究および教育の特徴 ――炎症性腸疾患(IBD)に対する研究について教えてください。藤谷教授 :当院は、道北地域における中核病院としての役割を果たしながら、IBD研究に幅広く注力してきました。例えば、クローン病(CD)の診断においては、竹の節状外観によるスクリーニング1,2) や、MRエンテログラフィーの拡散強調画像および腸管動画撮像による小腸病変の評価3) などを報告しています。
IBDの病態解明や新規治療に関しては、炎症抑制とは独立した直接的な粘膜治癒促進に着目し、約20年間研究を続けてきました。その一つの手段がプロバイオティクスであり、ラクトバチルスによる腸管のバリア機能強化4) などの研究を経て、それら乳酸菌由来の生理活性物質"長鎖ポリリン酸"による粘膜治癒促進作用5) を見出しました。この研究成果に基づいて大学内に創薬ベンチャーを設立し、長鎖ポリリン酸の特許出願から始まり、文部科学省および国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の資金協力を得て、原薬製法の確立と臨床試験の開始に至っています。
――北海道の若手医師育成にも注力されていますが、重要視される点を教えてください。藤谷教授 :育成においては、若手医師が自ら目標を高く設定することが重要と考えます。その目標を定めるために、早い段階から臨床面と研究面の双方をバランス良く意識しながら、十分な経験が積めるような体制整備を目指しています。
上野先生 :当医局では、卒後3年目の入局時から、消化管に限らず肝胆膵も含めて幅広い臨床力を習得する方針となっています。そして研究の補佐を行いながら、その過程で自身の疑問点を発見し、興味を抱いた分野に力を注いでいくことで、成果や成長へ繋がると考えています。研究においても、臨床力があってこそ基礎的な分野における要点を把握することが出来るのではないでしょうか。
――IBDの臨床研究として、北海道の施設が連携してデータを集積されていますが、現況や今後の展望を教えてください。藤谷教授 :従来、エビデンスに関しては"前向き無作為化比較試験"が金科玉条的な面もありました。もちろん、現在でもその重要性に変化はありませんが、実臨床では試験にエントリーされないような患者さんが半数を超えるのも実情です。従って、リアルワールドデータも同じく重要であり、私たちは札幌医科大学を研究本部とする"Phoenix Cohort -Retrospective Study-"(UMIN試験ID:UMIN000035384)に参加しながら、併せて"旭川IBDデータベース"を設立し【図 1 】、ネットワークの整備やエビデンスの構築を図っています。
上野先生 :Phoenix Cohortでは、IBD診療の基幹病院によるビッグデータの集積が主な目的となっています。一方、旭川IBDデータベースでは、参加8施設の関連性をより深め、地域医療連携の推進を図ることも重要な目標となっています。すなわち、IBDの治療選択肢が増加し、診療が多様化および複雑化する中で、地域におけるIBD診療のレベルアップを図る研究会としての役割にも期待しており、今後は癌の発生率など長期的なデータを収集し、フィードバックしていきたいと考えています。
将来的に、当院では分子標的薬が必要となる難治例や重症例の診療を担当し、地域の医療機関では基本的な治療でコントロール可能な症例に注力して頂くといった、IBD患者数の更なる増加への対策が期待されます。そのための基盤として旭川IBDデータベースを活用し、患者さんの紹介・逆紹介を円滑に進めるためのシステム開発やノウハウの提供に寄与できればと考えます。
大学病院を中核としたIBDに対する遠隔医療の可能性 ――広大な道北地域において、地域医療連携や遠隔医療の意義は大きいのでしょうか。藤谷教授 :IBD患者さんの病状と地域性の関連について調査を行ったところ、旭川医科大学への近距離通院患者群に比べ、遠距離通院患者群において入院および手術率の上昇が認められました6) 。このような現象は、これまで類推されてきたかもしれませんが、実際に検証を行い顕在化させたことの意義は大きく、IBD診療における均てん化の必要性が示唆されたと考えています。
しかし、広大な道北地域にIBD専門医を満遍なく配置することは難しく、それまでの介護分野における遠隔リハビリテーションなどの経験に基づき、IBD遠隔医療の一環として、2021年4月より薬剤師外来や遠隔栄養指導などを開始しました。この中では薬剤師の役割に期待しており、IBD治療における注射剤と他院処方薬との相互作用をはじめ、リフィル処方などの面からも重要性が高まっているものと捉えています。
上野先生 :薬剤師外来では、北海道科学大学薬物治療学分野 講師 岩山訓典 先生に、週1回(2022年6月現在)、私の外来に入っていただき、服薬指導や残薬確認をお願いしています。そして近い将来、IBD患者さんの地域の調剤薬局と薬薬連携を図っていくことを目指しており、服薬アドヒアランスや薬物相互作用の確認をはじめとして、地域における副作用の早期拾い上げにも期待しています。そのために、地域の薬剤師のIBDに対する更なる理解が求められ、ネットワークやクラウドも活用しながら、IBDの疾患啓発活動を行っていきたいと考えます。
IBD診療におけるチーム医療の意義 ――IBDの集学的治療が求められる中、多職種連携のポイントについて教えてください。藤谷教授 :IBDは治療期間が長期に及びやすく、若い患者さんも多い疾患です。それら背景からか、患者さんは接する機会の多い看護師へ心を開き、相談するケースが増えていました。また、治療選択肢が多様化する中で、薬剤師や栄養士を含むチームによる集学的治療が求められることから、当院では2018年より多職種が参加するIBDカンファレンスを開始し、2022年現在は、治験コーディネーターも参加しながら月に2回開催しています【図 2 】。
上野先生 :IBDカンファレンスの開始当初と比べ、現在はIBDに関する知識が共有され、スタッフからの発信は顕著に増加しました。そして、薬剤師からのフィードバックや、看護研究を行う文化も根付いたことから、IBDカンファレンスはスタッフの積極性を引き出し、治療成績の向上にも寄与するものと考えています。
今後のGMA治療の展望と期待 ――これまでの経験や知見から、顆粒球吸着療法(GMA)に対する印象について教えてください。藤谷教授 :GMAは、2000年の発売当初から積極的に取り組んできた治療の一つです。近年は、最適化された使い方や好適となる患者像が確立されてきた印象を持っています。特にUCに対しては、寛解維持療法に対して保険適用されたことにより、寛解導入から維持まで一貫して用いることが可能な選択肢の一つとなりました。また、非薬物療法として他の治療薬とも併用可能であり、他剤無効時にも新しい作用からのアプローチが可能となる点7) の意義は大きいと考えます。
上野先生 :私もGMAに対しては、安全性や薬物相互作用などの面から、他の治療へのアドオンが行いやすいことを評価しています。また、GMAには高齢者や妊婦、小児といった特別な背景を有するIBD患者さんにおける報告があるように8) 、患者背景に関わらず選択肢の一つになり得る治療と捉えています。
――便中カルプロテクチン(FC)によるGMAの効果予測についてご解説いただけますか。上野先生 :FCは、好中球あるいは単球から放出されたカルプロテクチンを測定し、腸管の炎症を把握するための非侵襲性マーカーです。GMAは好中球と単球を選択的に吸着する治療法であることから、FCが効果予測のバイオマーカーになるのではないかとの仮説を立て、旭川IBDデータベース参加施設と共同で、26名の活動性UC患者さんを対象とした前向き観察研究を行いました9) 。
週2回のintensive GMAを5週、計10回施行したところ、寛解率は50%であり、GMA 1週後のFC減少率(ΔFC)が、GMA終了時の寛解予測因子であることが示されました(P=0.002)。そして、GMA 1週後のΔFCのカットオフ値を40%以下に設定した場合、感度 76.9 %、特異度 84.6 %にて寛解を予測できることが認められました。実臨床において、FCの毎週計測は保険上困難ですが、保険の範囲内で、例えばGMA前と5回終了時のΔFCを測定し、そのまま継続か治療強化かの判定を行うことも有用ではないかと推察されます。
GMAの効果に関しては、併用薬の影響について、旭川IBDデータベースを活用した多施設後ろ向きコホート研究も行っており10) 、今後、FC測定や併用薬の影響を鑑みたGMAによる効果の最適化に向けて、解析を進めたいと考えています。
――最後に、これまでのIBD治療と今後の展望について教えてください。藤谷教授 :私が研修医のころ、IBDは入院と退院を短期間で繰り返す疾患でした。2000年代に入ると、GMAが新たな治療オプションとして臨床に登場し、それとほぼ同時期に拡大内視鏡が開発されました。当時の拡大内視鏡は癌の早期発見に対して注目を集めていましたが、私はUCの粘膜観察に注力しました。すると、症状が消失しているUC患者さんでも、100倍拡大では粘膜が再生していないケースも多く、そのような場合は6カ月以内に半数以上が再燃していました11) 。
その後、知見が積み重ねられ、再発予防としての粘膜治癒の重要性が広く認識されることとなりました。現在、粘膜治癒を得るためのアプローチは免疫抑制が中心ですが、抗TNF-α抗体製剤でも粘膜治癒率は50%に届かないのが実情です。そこで、粘膜治癒率の向上のために、前述のプロバイオティクスによる長鎖ポリリン酸をはじめ、幹細胞によるアプローチなど、様々な手法の開発が進んでいます。近い将来、再発を繰り返すというIBDの疾患概念が、過去のものとなることに期待しています。
1) Yokota, K. et al.:Gastrointest Endosc. 1997;46(3):268-72. 2) Fujiya, M. et al.:Medicine (Baltimore). 2015;94(37):e1500. 3) 上野 伸展 ほか:日本消化器病学会雑誌. 2019;116(suppl-1):A194. (第105回日本消化器病学会総会, 2019年5月) 4) Ueno, N. Fujiya, M. et al.:Inflamm Bowel Dis. 2011;17(11):2235-2250. 5) Fujiya, M. Ueno, N. et al.:Clin Pharmacol Ther. 2020;107(2):452-461. 6) 嘉島 伸 ほか:日本消化器病学会雑誌. 2018;115(suppl-2):722. (第60回日本消化器病学会大会, 2018年11月) 7) Yokoyama, Y. et al.:J Crohns Colitis. 2020;14(9):1264-1273. 8) Motoya, S. et al.:BMC Gastroenterol. 2019;19(1):196. 9) Ueno, N. et al.:BMC Gastroenterol. 2021;21(1):316. 10) The 10th Annual Meeting of Asian Organization for Crohn's & Colitis (2022年6月) 11) Fujiya, M. et al.:Gastrointest Endosc. 2002;56(4):535-542.