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GMAのこれまでとこれから:GMAのクリニカルパール探求

Adacolumn Clinical Pearl

アダカラムインタビュー記事シリーズ

GMA 20年をこえる臨床知見からの提言

全国の先生方より、消化器および皮膚領域における最新の診療状況を踏まえた上で、様々な視点から顆粒球吸着療法(GMA)の日常診療における活用方法や工夫、メリットや課題についてお話いただきます。

IBD:炎症性腸疾患、UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病、PP:膿疱性乾癬、PsA:乾癬性関節炎(関節症性乾癬)

※先生のご所属先および役職、治療指針等は掲載時点の情報です

京都府アダカラム
インタビュー記事シリーズVol. 31

IBD病態解明へのアプローチとGMAによる腸内細菌叢の変化

京都府立医科大学 消化器内科学・医療フロンティア展開学
准教授 髙木 智久 先生

IBDの発症や再燃、増悪の背景には多種多様な因子が関与しており、様々な角度から病態解明へのアプローチが行われています。なかでも血中亜鉛濃度や腸内細菌叢の変化は、特に注目を集めており、新たな機序による治療の創出が期待されています。今回は、これら最新のIBD病態に関するTopicに加え、GMAによる腸内細菌叢の変化や、その非薬物療法としての役割について解説いただきました。

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京都府立医科大学におけるIBD診療の実際と臨床研究
 当院では年間、潰瘍性大腸炎(UC)患者約400例、クローン病(CD)患者約200例を診療しており、京都府におけるIBDの代表的な基幹施設の一つとなっています。当院のIBD診療では地域医療連携を重要視し、紹介患者を多く受け入れた上で、安定した状態のIBD患者は紹介元の医療機関へお戻ししているため、重症例や難治例へ集中して治療に臨めています。このような地域医療連携による適切な役割分担は、増加するIBD患者の効率的な診療に寄与するものと捉えています。

 実際の連携では、医療機関から気軽に相談いただける環境を目指し、直通の電話を設けています。現在、週に10件ほどの相談を受けており、良好なコミュニケーションによってステロイドの適切な使用法などが浸透することで、地域全体のIBD治療成績の向上に繋がると考えています。

 当院は重症例の割合が高いため、非薬物療法である顆粒球吸着療法(GMA)や分子標的薬を含め、広く治療選択肢を準備しています。また、京都大学薬学部と分子標的薬の血中薬物濃度モニタリングに関する共同研究を進めており、より適切な投与量の策定に向けて知見を集積しています。

 近年、UC治療において、再燃抑制の観点から粘膜治癒の重要性が注目されています。しかし、粘膜治癒の定義として用いられるMayo Endoscopic Subscore (MES)が1や0の場合でも一定頻度で再燃は生じるため、より予後に相関した指標の開発が望まれているのが現状です。そこで、内視鏡像の赤色部分を強調した"Linked Color Image (LCI)"と呼ばれる画像強調内視鏡技術を用いて粘膜の状態と予後を観察したところ、LCI観察にて発赤を認めない場合には、高率に再燃しないことが示されました1,2)。MES 0の場合でも、約半数近くがLCIでは発赤を認めるため、今後LCIは新たな粘膜治癒評価方法として、またUC病態の解明にも寄与するものと期待しています。

 

IBDの病態解明に向けたアプローチ血中亜鉛濃度-
 CDの活動期では亜鉛の血中濃度が低下することが知られています。その原因として炎症発生後の吸収障害が類推されてきました3)。しかし、私たちが大腸炎モデルマウスを用いて検討したところ、むしろ亜鉛濃度の低下により炎症が惹起される可能性が示唆されました4)。マクロファージ(Mph)は炎症型(M1)と炎症抑制型(M2)に分けられますが、細胞質内の亜鉛が不足するとM1型Mphが増加することが明らかとなりました。そして、M1型MphはIL-23を高発現し、このIL-23によってナイーブT細胞が17型ヘルパーT(Th17)細胞へ分化誘導されます。

 すなわち、亜鉛欠乏によるIL-23/Th17経路の活性化がIBD病態形成に関与していると考えられ、血中亜鉛濃度が低下しているIBD患者に対する亜鉛の補充は、抗IL-23抗体製剤と同様の作用が導かれる可能性も推察されます。さらに、亜鉛以外にもIBD病態へ影響する微量元素を網羅的に解析する"メタロミクス(Metallomics)"の研究も進んでおり、将来的に個々のIBD患者の病態に適合した個別化治療への応用にも期待しています。

 

IBDの病態解明に向けたアプローチ腸内細菌叢-
 制御性T細胞を誘導する17種のClostridium の報告5)以降、腸内フローラ移植など、腸内細菌叢が新たなアプローチとして注目されています。さらに腸内細菌叢は、IBDのみならず様々な疾患に関与していると考えられており、京都府立医科大学が組織横断的に取り組んでいる重要な研究テーマの一つとなっています。

 私は2013年から2年間、京都府丹後保健所の所長を務めました。この地域における100歳以上の"百寿者"の割合は、人口10万人あたり230人と全国平均の約3.3倍6)である点に着目し、また人口の流動性も低いことから、2~3世代先を見据えた日本人の健康長寿について調査する"京丹後長寿コホート研究"が2017年から京都府立医科大学にて開始されました。

 この時点からコホートにおける腸内細菌叢の解析を行い、同時に京都市内における解析結果と併せてデータを蓄積してきました7-9)。その結果、日本の健康成人に加え、生活習慣病患者および長寿地域在住者における腸内細菌叢の特徴が抽出されました【表】。注目すべきは、日本人の腸内細菌叢が欧米とは大きく異なっている点であり、最近、日本人に特徴的なエンテロタイプを報告させていただきました10)。また、同じ日本人であっても、生活習慣病患者や長寿地域在住者では、腸内細菌叢に変化を認めます。

 IBD患者の腸内細菌層に対しては、便検体に加えブラシによる内視鏡下採取粘膜擦過検体も解析しています。UCでは、ブラシ検体より便検体の方でBifidobacterium が有意に多く、Bacteroides が有意に少ない、という結果が得られています11)。さらに、UCの炎症部位のブラシ検体では、非炎症部位の粘膜と異なる細菌叢を呈しており、病態解明に向けた糸口として更なる知見の集積に期待しています。

 また、私たちは寛解期UC患者の再燃に関連する腸内細菌叢の検討をおこなっており、観察期間中に再燃を認めた群と認めなかった群で腸内細菌叢が異なっていた点は興味深い結果であると考えます12)。さらに、再燃群では、腸内細菌叢の変化に加え、異なる代謝経路の活性化を認め、特に短鎖脂肪酸代謝の異常が再燃に関与する可能性も示唆されました。

 UC患者の腸内細菌叢は、UCに対する治療によって変化します。GMAの場合、治療効果に関わらず細菌叢の変化を認めましたが13)、その背景には腸管粘膜に浸潤した活性化白血球の減少が推察されます。このUC治療による腸内細菌叢の変化は、治療による直接的な作用か、炎症の抑制により二次的にもたらされた作用か、現時点では不明であり、今後も継続すべき研究テーマと捉えています。

 私たちは、胆汁酸とIBDについても研究を進めていますが14)、一次胆汁酸から二次胆汁酸への変換にも腸内細菌は関与しており、食物繊維の摂取などと併せて、複雑に影響を及ぼしあっています。前述のように日本では欧米と腸内細菌叢が異なっているため、欧米における様々なエビデンスを、そのまま日本にも適合させるには難しい部分もあるのではないでしょうか。今後、私たちは、基礎研究の成果を臨床にフィードバックしながら、併せて日本人におけるエビデンスを蓄積していきたいと考えています。

 

IBD治療におけるGMAの役割と今後の展望
 GMAは、2000年にUCの寛解導入療法について保険適用されました。私は当時、勤務先の滋賀県 甲南病院においていち早くGMAを導入し、それ以降UC治療における非薬物療法として重要な選択肢の一つと捉え続けています。UCの治療指針15)に則って、GMAが選択肢として該当する全てのUC患者がGMAの対象となり得ると私は考えており、特に安全性の考慮が必要となる患者には、より適した治療ではないでしょうか。当院では、基本的にintensive GMA(GMAを週2-3回実施)を選択する場合が多く、当院の休診日に施行を希望される際は、地域医療連携を図って対応しています。

 2022年1月より、GMAはUCの寛解維持療法に対しても保険適用となりました。その根拠となったCAPTAIN studyにおいて、血球成分除去療法(GMAあるいは白血球除去療法)を上乗せした群は、対照群に比べ52週時の粘膜治癒(MES≦1)率が有意に高かったことが示されました16)。UCの寛解維持療法においては、どのレベルでの粘膜治癒を目指すか、免疫を抑制する治療をいつまで続けるか、といった課題もあります。このような状況下でGMAが新たに寛解維持療法としての選択肢に加わったことにより、課題解決に向けてどうアプローチできるか、今後の知見の集積にも期待しています。

京都府立医科大学_髙木先生_図表.jpg

1) Uchiyama, K., Takagi, T. et al:J Crohns Colitis. 2017;11(8):963-969.
2) Takagi, T. et al.:J Gastroenterol Hepatol. 2021;36(9):2448-2454.
3) Goh, J., O'Morain C.A.:Aliment Pharmacol Ther. 2003;17(3):307-320.
4) Higashimura, Y., Takagi, T. et al.:J Crohns Colitis. 2020;14(6):856-866.
5) Atarashi, K. et al.:Nature. 2013;500(7461):232-236.
6) 京丹後市役所:令和3年9月17日報道資料;https://www.city.kyotango.lg.jp/material/files/group/1/20210917_n134.pdf (2022年3月現在)
7) Takagi, T. et al.: J Gastroenterol. 2019;54(1):53-63.
8) Takagi, T. et al.:Nutrients. 2020;12(10):2996.
9) Naito, Y., Takagi, T. et al.:J Clin Biochem Nutr. 2019;65(2):125-131.
10) Takagi, T. et al.:Microorganisms. 2022;10(3):664.
11) 柏木 里織, 髙木 智久 ほか:日本消化器病学会雑誌. 2018;115(suppl-1):292. (第104回日本消化器病学会総会, 2018年4月)
12) 北江 博晃, 髙木 智久 ほか:日本消化器病学会雑誌. 2021;118(suppl-1):5032. (第107回日本消化器病学会総会, 2021年4月)
13) 柏木 里織, 髙木 智久 ほか:日本消化器病学会雑誌. 2017;114(suppl-2):803. (第59回日本消化器病学会大会, 2017年10月)
14) Azuma, Y. et al.:J Gastroenterol Hepatol. 2022;37(1):134-143.
15) 「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班)令和2年度分担研究報告書
16) Naganuma, M. et al.:J Gastroenterol. 2020;55(4):390-400.