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医療関係者の方へ

GMAのこれまでとこれから:GMAのクリニカルパール探求

Adacolumn Clinical Pearl

アダカラムインタビュー記事シリーズ

GMA 20年をこえる臨床知見からの提言

全国の先生方より、消化器および皮膚領域における最新の診療状況を踏まえた上で、様々な視点から顆粒球吸着療法(GMA)の日常診療における活用方法や工夫、メリットや課題についてお話いただきます。

IBD:炎症性腸疾患、UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病、PP:膿疱性乾癬、PsA:乾癬性関節炎(関節症性乾癬)

※先生のご所属先および役職、治療指針等は掲載時点の情報です

北海道アダカラム
インタビュー記事シリーズVol. 15

進歩を続けるIBD治療における多様化した選択肢と普遍的な概念

札幌厚生病院 副院長 兼IBDセンター長
兼臨床試験センター長
本谷 聡 先生

生物学的製剤を始めとする新薬が続々と登場し、IBDの治療体系は大きく変わってきたといえます。今回は、多様化する治療選択肢の一方で変わらない治療概念や、近年増加しつつある高齢者など特殊な患者背景を有するIBD治療におけるGMAの可能性について解説いただきました。

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札幌厚生病院におけるIBD診療の実際

 当院の消化器内科は、胃腸内科、胆膵内科、肝臓内科、IBDセンターの4科で構成されています。IBDセンターは、潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病(CD)に代表される炎症性腸疾患(IBD)を専門に診療するユニットとして2009年に開設されました。年間の患者数は、現在は少し落ち着きましたが、最大でUCが約1,400名、CDが約1,100名の、合計約2,500名を受け入れています。

 私が札幌医科大学病院より当院に着任したのは2000年のことです。IBDの治療法が完全には確立していなかった30年以上も前から、消化器疾患を得意とする当院では、積極的にIBD患者を受け入れ、札幌市におけるIBD治療の中枢施設の役割を担っていました。その歴史が現在のIBDセンターに受け継がれています1)

 

IBD診療の歴史と基本方針

 当院IBDセンターの基本方針は、『ステロイドに過度に依存しないIBD治療』です。今でこそIBD治療の根幹となるこの考えですが、安易にステロイド投与せず必要最低限にとどめることは、当時IBD診療をされていた須賀元院長や今村元副院長上司から強く指導いただき、現在も伝統として引き継いでいます。

 この方針を実践するため、メサラジン最高用量でも効果不十分な潰瘍性大腸炎にサラゾスルファピリジンを追加投与してメサラジンの総投与量を最大化させたり、メサラジン製剤を粉砕してお湯に溶かして肛門から注入したり、院内でメサラジン坐剤を製剤したりといった5-ASA製剤の最適な投与法を検討し、ステロイドに過度に依存しないよう様々な工夫を行っていました。当院の治療方針や工夫が患者さんから評価いただいたことも、多くのIBD患者が来院される理由のひとつと考えています。現在ではこれらの投与法は『メサラジン製剤の最適化』としてIBD治療戦略の常識となっています。当院のこれまでの方針と実践は間違っていなかったものと安心しています。

 当院では多くのIBD患者の治療にあたってきたのはもちろん、医育機関やほかの医療機関から派遣いただいた医師をお迎えし、IBD専門医の人材育成も行ってきました2)。それらの医師が地元に帰って、それぞれの地域におけるIBD診療の中心となって活躍されていることの意義は大きいと考えます。

 また、多施設臨床研究や新薬の臨床試験にも積極的に取り組んでいます。治療の結果をフィードバックすること、臨床データを蓄積して治療の進歩に貢献することも、ハイボリュームセンターである当院の責務と捉えています。

 

選択肢が増えてもUC治療の基本は不変

 UC治療は基本に忠実に行うことが重要です。近年、生物学的製剤(Bio)が多種類使えるようになって治療選択肢は多様化しましたが、基本的な治療戦略は今も変わっていません。まずは5-ASA製剤を基本治療薬とし、もちろん5-ASA不耐やアレルギーについて十分観察した上で、寛解維持においても5-ASA製剤をベースにします。Bioは難治性UCに対する効果は優れていますが、決して早期から安易に使用すべき薬剤とは考えていません。

 またBioにもそれぞれ特徴があり、UC患者の病態に合わせて選択しなければなりません。発売時は治験データしかありませんが、使用経験を積むにつれて使い方や副作用が徐々に判明してきたため、当院ではどのようなUC患者にどのBioを使用するか、ある程度の方針を定めています2)

 顆粒球吸着療法(GMA)は発売から20年の歴史がある治療法です。Bioを使うほどではない難治性の中等症例に重要な選択肢の一つと私は考えます。さらに、非薬物療法であるGMAは、安全性の考慮が必要な高齢者をはじめ特別な患者背景を有する場合においても選択肢の一つになると推察されます。

 そこで当院が中心となり、"PARTICULAR study"と称して、全国93施設による多施設コホート研究によって、特別な患者背景を有するIBD患者におけるGMAの安全性および有効性の検討を行いました3)

 安全性評価対象は、UCとCDを合わせて437例であり、ここから併用禁止薬投与例などが除外され、UCでは252例が有効性評価対象となりました。登録された特殊な患者背景の上位5種は、GMA再治療例・免疫抑制治療薬2剤以上併用例・高齢者・貧血合併例・小児でした【】。

 上位5背景における有害事象/副作用発現率は、GMA再治療例9.9%/2.3%、免疫抑制治療薬2剤以上併用例15.2%/4.0%、高齢者11.2%/0.0%、貧血合併例18.1%/3.8%、小児18.9%/5.7%でした。また、UCに対する寛解率は、高齢者49.5%、GMA再治療例41.0%、貧血合併例39.0%、免疫抑制治療薬2剤以上併用例46.2%、小児53.3%でした。以上の結果より、特別な患者背景を有するIBD患者に対しては、有さないIBD患者に比べ安全性等の配慮は伴うものの、GMAの安全性および有効性が示唆されたものと考えます。

 最後に、当院における直近のGMA施行例を挙げます。COVID-19流行下においては、外来患者の通院回数を考慮する必要があります。入院を検討するような症状があり、頻繁に通院が必要なUC外来患者に対してステロイドによる寛解導入療法を行う場合、GMAを併用することで寛解導入までの期間やステロイド離脱までの期間の短縮を図っています。安全性を考慮しながら治療効果の底上げを目指すため、薬物療法のパートナーとしてGMAは適していると考えます。ただしGMAのための通院を患者本人が負担に感じる場合には、一定期間入院していただき、短期間に集中して施行する手法も当院では採用しています。

 新しい治療法が開発されたからといって、既存の治療法が不要になるわけではありません。選択肢が増えたと考え、個々のIBD患者に応じてそれぞれの治療法の良いところをうまく組み合わせることで、より最適なIBD治療が実現できると思います。

札幌厚生病院_本谷先生図表.jpg

1) 本谷 聡:診断と治療, 106(9), 1157-1160, 2018
2) 本谷 聡 ほか:医学のあゆみ, 270(3), 260-261, 2019
3) Motoya, S. et al.:BMC Gastroenterol., 19(1), 196, 2019