GMAのこれまでとこれから:GMAのクリニカルパール探求
アダカラムインタビュー記事シリーズ
GMA 20年をこえる臨床知見からの提言
全国の先生方より、消化器および皮膚領域における最新の診療状況を踏まえた上で、様々な視点から顆粒球吸着療法(GMA)の日常診療における活用方法や工夫、メリットや課題についてお話いただきます。
IBD:炎症性腸疾患、UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病、PP:膿疱性乾癬、PsA:乾癬性関節炎(関節症性乾癬)
※先生のご所属先および役職、治療指針等は掲載時点の情報です
IBD 診療における医療連携の実情と課題
当院は兵庫県高砂市に位置する中核病院で、約10名の常勤医師にて東播磨地区の急性期医療を担ってきました。私は2019 年7 月に着任し、施設の新たな特徴として「消化器炎症性疾患内科(消化器IBD内科)」を新規開設し、IBD 診療は転換期を迎えました。着任当時の患者数は10名に満たない状況でした。院内では多職種によるチーム医療をゼロから立ち上げ、院外では地域の医療施設と交流を重ねて、約4年経過した現在では、潰瘍性大腸炎(UC)41名とクローン病(CD)14名のIBD患者の診療に携わっています。当科では、今後の患者数増加にも十分対応可能な診療体制を整えております。
「消化器炎症性疾患内科」と分かりやすく標榜した背景には、IBD患者さんがどこの医療施設を受診すれば良いか分からない、プライマリケアの先生がどこに患者を紹介して良いか分からない、といった課題があり、これらの課題を解消して地域医療連携に貢献することを目指しています。IBD診療において質の高い医療を患者さんへ提供するために医療連携は重要である一方、様々な問題にも直面しています【図 1 】。地域のIBDの治療成績やQOLをより一層向上させるためには、医療連携の推進に加え、不足する専門医を補うためにも新たなIBD診療医を育成することが重要です。限られた時間で必要な知識と経験を獲得する手段としては、IBD専門施設への国内留学は非常に有用な手段であり、医療格差を解消して均てん化した治療を患者のすぐ近くの地域で提供する糸口の一つになるのではないでしょうか。
IBD 診療の国内留学の可能性と IBD 多職種連携の意義
私は消化器外科の出身ですが、前任の姫路中央病院でIBDの豊富な診療経験を有する宗友良憲先生に師事したことを契機に強くIBDに興味を持つようになり、共に診療に携わるようになりました。そして、更なるIBD診療の研鑽を積むために、2018年4月に日本でも有数のIBD診療のハイボリュームセンターである「札幌東徳洲会病院 IBD センター」に国内留学をしました。これは私にとっては非常に有意義な経験となり、現在も高いモチベーションを持って日々のIBD診療に勤しむ原動力となっております。今でも非常勤講師として札幌東徳洲会に出張を続けていますが、国内留学された若い先生との交流を続けることで、互いに良い刺激を受け合っています。
ハイボリュームセンターでの国内留学では、個人差はありますが、約3カ月で基礎的なIBD診療の考え方が身につくようになり、さらに半年から1年ほど留学を継続すると、入院の重症症例や外来の特殊な個別症例への対応も、自らの治療戦略に則って進めることが出来るようになります。
国内留学の意義は診療技術の専門性を高めることだけでなく、実際の診療を通して患者やチームの医師からさまざまな価値観に触れる機会を得ることで、患者に傾聴する姿勢や、医師同士のディスカッションやコンサルトする能力を学べることにあります。ハイボリュームセンターでIBD専門医とのネットワークを構築することで、留学後に自分の地域に戻ってからも専門性の高い診療の継続が可能となります。
私の場合、留学後は札幌での経験を活かして多職種連携IBDチームを結成しました。構成は、医師/ 外来看護師/ 病棟看護師/ 管理栄養士/ 薬剤師/ 臨床工学技士/医療クラーク/ 医事課/ 入退院支援室であり、月1回の勉強会とカンファレンスを実施し、さらに近隣の播磨地区のIBD診療施設とのチーム交流も行っています。IBDのチーム医療では、全ての職種で独自の高度な専門性が求められますが、感染制御チーム(Infection Control Team :ICT)や栄養サポートチーム(Nutrition Support Team:NST)のように加算が認められておらず、公的な運営基準も存在しないのが実情です。それだけに、IBD患者さんの人生に長期間寄り添って支援することに喜びを覚え、その充実感を共有できるような地域独自のチームを構築したいと考えています。
今後のチームの展望として、全職員対象の院内勉強会の開催や患者会なども企画し、院内外に対してもIBDという疾患への理解が浸透することを目指しています。院内のチーム医療も地域の医療連携も、情報発信と情報の共有こそが大切であり、このような取り組みにより、IBD診療の均てん化への寄与が期待され【図 2 】、役割の異なる各施設がそれぞれの課題に取り組むことで、均てん化が着実に推進されるものと考えています。
UC 治療における留意点と今後の GMA の展望
現在、IBD治療に根治療法は存在しないため、豊富な選択肢の中から、個々の患者さんの病態やライフスタイルに適した治療を、共に考えながら意思決定を行う"Shared Decision Making (SDM)"が重要となっております。JAK阻害薬を初めとする新規の分子標的薬には、十分な効果が期待されるものの長期的な安全性などがまだ不明点も多い点も伝える必要があり、むしろステロイドや5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤など既存治療を正しく使い切る重要性を丁寧に説明することも必要であると考えています。
顆粒球吸着療法(GMA)は20年をこえる臨床経験が積み上げられた治療法であり、非薬物療法である点から、薬物相互作用やポリファーマシーを考慮することなく既存治療はもとより分子標的薬とも併用可能な点の意義は大きいと捉えています。例えば、抗TNF-α抗体製剤の効果減弱例におけるGMAの併用が中和抗体濃度を低下させ抗TNF-α抗体製剤の治療効果を回復させた報告もあり1) 、GMAの役割には今後も期待しています。
GMA施行中の約1時間においては、臨床工学技士が意欲的に患者のヒアリングを行い、その内容をチームにフィードバックすることで、診療上の課題を共有できることも多く、助かっています。勉強会においては、臨床工学技士がGMAに関する講義なども行ってくれます。このように、IBDのチーム医療では、医師のみならず、患者さんと直接接する機会の多い職種がハブとなり、積極的に診療を牽引していける環境が理想的ではないでしょうか。
地域の医療連携も、チーム医療も目指すところは、地域のIBD患者さんに適切な診療を提供して、疾患の憂いなく社会生活を継続できるよう支援することだと思います。この目的を達成するためには、IBD診療に携わる各施設と地域の医療機関のスタッフが協力しながらお互いの課題を乗り越えていくことが望まれます。
IBD 診療の国内留学を積極的に受け入れてきたハイボリュームセンターから 札幌東徳洲会病院IBD センター 副院長/IBD センター長/ 医学研究所所長 前本 篤男 先生
潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患(IBD) の患者数は、近年増えてきています。しかし患者さん本人も、周囲も、さらには専門医であっても気がつきにくく、診断が難しい時もあります。また新しい治療も急速に増えてきていて大変良い時代になりましたが、一方で常に最新の治療や考え方を学習することが必要です。そこで、各々の立場から協力して診療していく多職種のチーム医療が大変重要になってきますし、より深くIBD とは何かを知る専門家が求められている時代ともいえます。
高砂西部病院の西村先生は、もともと外科医である視点もありながら、最新の内科診療を学び、患者さんに寄り添い、院内外の連携をとって診療にあたっています。患者さんが多く通院するIBD 専門病院には、臨床研究を推進し、より多くのIBD 専門医を育てる責任もあると思っていますが、自施設だけで成長もできません。西村先生のような先生と連携をとり、常に情報交換をすることが実は私達の力にもなっています。互いに切磋琢磨して成長し、ひいては全国の患者さんのためになる診療を目指したいと考えています。
1) Yokoyama, Y. et al.:J Crohns Colitis. 2020;14(9):1264-1273. (利益相反:本研究は一部JIMROの資金提供を受けて行われた。著者の一部はJIMROの社員である。)