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GMAのこれまでとこれから:GMAのクリニカルパール探求

Adacolumn Clinical Pearl

アダカラムインタビュー記事シリーズ

GMA 20年をこえる臨床知見からの提言

全国の先生方より、消化器および皮膚領域における最新の診療状況を踏まえた上で、様々な視点から顆粒球吸着療法(GMA)の日常診療における活用方法や工夫、メリットや課題についてお話いただきます。

IBD:炎症性腸疾患、UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病、PP:膿疱性乾癬、PsA:乾癬性関節炎(関節症性乾癬)

※先生のご所属先および役職、治療指針等は掲載時点の情報です

東京都アダカラム
インタビュー記事シリーズVol. 65

IBD治療の選択肢が多様化する状況下の非薬物療法の意義を再考する

JCHO東京山手メディカルセンター
消化器内科 (炎症性腸疾患センター) 部長
酒匂 美奈子 先生

IBD治療は、分子標的薬の登場により選択肢が多様化し、主に難治例や重症例を中心として治療成績の向上につながりました。しかし、分子標的薬の投与にあたっては、感染症をはじめとした予期せぬ有害事象の発現や効果減弱などに対する注意が求められ、一度投与を開始すると中止の判断が困難になるなどの側面も存在します。これらを背景として、IBD患者さんの更なるQOL向上を図るために、栄養療法やGMAなどの非薬物療法と薬物療法の併用に期待が集まっています。そこで今回は、日本有数のハイボリュームセンターにおける非薬物療法の実際と、これまでの知見について総括いただき、さらに女性IBD患者さんに対する診療上の留意点についても併せてお話を伺いました。

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JCHO東京山手メディカルセンターにおけるIBD診療の実際

 当院は、ビジネスや商業の中心地である新宿区に位置し、二次救急医療機関として中核病院の責務を果たしながら、地域医療連携を強固に推進している施設です。旧・社会保険中央総合病院の時代から、肛門疾患およびIBDに対して積極的に取り組み、数多くの知見を報告してきました。現在も当炎症性腸疾患センターには、全国各地より患者さんが紹介されるなど、IBD診療において日本をリードする基幹施設としての役割を担っています。当センターにおける2023年の診療実績は、外来が約2,700例、入院が約500例であり、いずれもCD患者数がUCの2倍を超えている点が特徴です【】。その背景には、肛門病変に対する外科的対応など、一貫して総合的に対応可能な院内の体制に加え、従来から先駆的に小腸造影検査を実施し、確実な診断へと導いた点の寄与が大きいと考えます。またUCに関しては、安定した患者さんの逆紹介を積極的に行う地域医療連携により、難治例や重症例に集中して取り組むための体制整備を図っています。

 

 このようなIBDのハイボリュームセンターとしての機能を維持するためには、看護師や薬剤師、放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、栄養士、医療クラーク、ソーシャルワーカーなどによるチーム医療がきわめて重要であり、各スタッフがIBDについて習熟することが求められます。特に、看護師など異動が多い職種も存在することから、スタッフの知識と経験を共有化し、質の高い医療を提供するために、IBD病棟主催の勉強会を月に1回開催しています。勉強会では、様々な職種が講師を務め、新たな検査や治療法を提示することで、IBD診療のアップデートを図っており、さらに各職種が外部に知見を報告する機会としても活用しています。実際に、当院の特徴であるストーマケアや食事・栄養療法について、各スタッフによる積極的な学会発表や文献化が行われています1,2)

 

 

CD診療における集学的治療の意義と非薬物療法の再評価

 IBD治療は、分子標的薬の登場により難治例や重症例を中心として治療成績が向上しました。この治療選択肢の多様化に伴い、UCに対しては、治療指針に則ったステップアップ療法の際に、効果判定を早めに行い、GMAや分子標的薬による速やかな治療強化を図る傾向が強くなっているのではないでしょうか。一方、CDではトップダウン療法が一般化し、分子標的薬による早期介入が重要な選択肢となっています。私たちの臨床経験において、抗α4β7インテグリン抗体製剤の有効例は無効例に比べ罹病期間が短くなっており3)、診断早期に分子標的薬を投与することで治療成績の向上を図れる可能性が示唆されました。ただし、治療開始54週時点の有効率は42.3%に留まることから、既存の薬物療法に加え、非薬物療法も併用する集学的治療の実施が強く求められます。

 

 実際に、CDにおいて抗TNFα抗体製剤に栄養療法を併用することの有用性に関して、寛解導入療法における奏効率の上昇や4)、メタ解析によるCDの寛解維持効果5)が報告されており、これらは当センターの臨床経験と合致する印象を持っています。特に、抗TNFα抗体製剤投与中に効果減弱(LOR)を認め、投与間隔の短縮を要した際に栄養療法を併用すると、次回投与までの間隔が6週、7週、8週と徐々に回復していく場合もあります。GMAも同様に、インフリキシマブ(IFX)投与中のLORに対して、血中抗IFX抗体濃度を有意に低下させ、効果を回復させることが報告されています6)。これら生物学的製剤(Bio)とGMAおよび栄養療法の併用は、安全性を考慮しながら治療強化を図るための手法として意義が大きく、Treat to Targetの概念のもと、粘膜治癒を目指す現代のIBD治療において果たすべき役割は大きいと考えます。

 

 栄養療法やGMAは、スペシャルシチュエーションの患者さんにとって重要な選択肢の一つとなります。例えば小児のCD寛解導入療法において、栄養療法による疾患活動性低下が示されており7)、小児において留意すべき成長障害の観点からも有用と考えます。GMAはUCにおいてステロイド(PSL)総投与量の減少8)が報告されており、小児をはじめとして糖尿病や骨粗鬆症などの併存症を有する患者さんにおけるPSL減量が期待されます。また、GMAはPARTICULAR studyと称された多施設共同研究において、高齢者や小児、貧血合併例など様々なスペシャルシチュエーションに対する安全性および有効性が報告されています9)。これら安全性がより重要視される患者さんに対して、栄養療法やGMAなどの非薬物療法は活用が望まれる治療の一つと捉えています。

 

 IBDにおける栄養療法やGMAを円滑に行うために、多職種連携は重要なポイントとなります10)。例えば経鼻経管栄養では、導入時における看護師や臨床工学技士からの十分な説明に加え、栄養士が継続的に食事量と栄養剤のバランスなどについてアドバイスを行うことが治療継続に大きく寄与します【1】。下痢に悩む患者さんが低残渣を意識し過ぎて粥やうどんばかりを食べ、食物繊維不足から下痢を惹起していたことが栄養士とのコミュニケーションによって判明した場合もあります。このようなケースでは、患者さんの希望や生活スタイルに合わせて、成分栄養剤服用前のイモの摂取や、ゼリータイプへの変更などを行い、個々の患者さんに対して栄養療法の最適化を図ることが望まれます。

 

 様々な薬物療法に抵抗を示すCDは珍しくありませんが、そのような際に完全な腸管安静のための中心静脈栄養が有効となる場合も多いことから、治療選択肢の多様化が進む中でも栄養療法は必要不可欠な治療と考えます。一方GMAも、週2回のintensiveな施行により、活動期CDの寛解導入までの日数を有意に短縮させるため11)、例えば抗α4β7インテグリン抗体製剤とGMAを併用することで、より速やかな寛解導入が期待されます【2】。そして、臨床的寛解後に内視鏡評価を行い、著効の場合はそのまま抗α4β7インテグリン抗体製剤による寛解維持を、炎症が残存している場合は抗TNFα抗体製剤に切り替えるような治療戦略も有用と推察されます。

 

 その他にもGMAは、皮膚や関節病変といった腸管外合併症を有するCDに対して臨床症状の改善に加え、抗TNFα抗体製剤による寛解維持効果を底上げするのではないかと捉えています。前述のようにGMAは、IFXのLORに対する効果が報告されていますが6)、この点は臨床経験とも合致する印象を持っており、抗TNFα抗体製剤投与時の内視鏡評価において、炎症が残存している場合の治療強化を図る際の選択肢として、栄養療法と併せて期待しています。今後、分子標的薬同士の併用による治療強化について、知見の集積が進むものと推察されますが、それらの手法が十分確立するまでは、分子標的薬とGMAや栄養療法との併用の意義は大きいと考えます。

 

 

女性IBD患者さんに寄り添うためのポイント

 女性IBD患者さんの診療では、妊娠や出産、授乳など特有のライフイベントに加え、月経や閉経などへの配慮が求められます。特に女性患者さんが40kg以下まで痩せてしまうと、月経が来なくなるケースが大部分を占めるため、月に2回開設する婦人科のIBD外来を紹介して、ホルモン補充療法を受けていただくことも少なくありません。また、女性患者さんでは肛門病変についての相談が遅れやすい場合もあり、問診で『大丈夫です』と答えていても状態が悪化しているケースも散見されます。従って、まずは医師が肛門病変について遠慮しながら質問することを避け、平然と日常会話的に問診を行うことを心掛けています。肛門病変は腫脹と疼痛を認めなければ、多少の浸出液は問題が無いとされていた時代もあり、そのような説明を受けた患者さんが、難治性痔瘻へ移行していることがある点が臨床上の課題となりつつあります。女性に限らず、『CDだから多少の肛門病変は仕方がない』と捉えるのではなく、決して恥ずかしがらずに気兼ねなく相談できるよう、平素から積極的に肛門病変の問診を行っておくことが重要と考えています。

 

 IBD患者さんの中には、高校や大学を卒業後、短期間の内に結婚される女性もおり、在学中から妊娠中も継続可能な薬剤の説明を行い、挙児を希望する場合は再燃時の妊娠を避けた方が望ましい点を伝えています。なお、現在のIBD治療の傾向として、妊娠中の病勢コントロールの重要性から、必要に応じて妊娠後期までBioを投与することが一般的となっています。その際の留意点として、妊娠30週以降にIFX投与を受けた患者さんでは、生後6カ月の児の血液中にIFXが検出されることから12)、そのような場合は、生ワクチン接種前に相談が必要であることを事前に説明しておくことが大切です。

 

 当院において、妊娠中にUCが中等症の活動期に移行した4例で計5回の妊娠では、中心静脈栄養療法 2例、血球成分除去療法(CAP) 2例と、非薬物療法が高い割合で選択されていました13)。当院以外でも、妊娠中のCAPによる病勢コントロールは行われており14)、Bio投与が一般化する中でも重要な選択肢の一つと考えます。今後、妊娠中も含め、多様な患者背景に対するGMAと種々のBioとの併用に関する知見の集積に期待しています。

東京山手メディカルセンター_酒匂先生_図表.jpg

1) 積 美保子:看護技術. 2022;68(4):26-31.
2) 遠藤 さゆり ほか:生物学的製剤投与中の潰瘍性大腸炎患者の脂肪酸摂取量の検討, 第42回食事療法学会(2023年3月)
3) 酒匂 美奈子 ほか:日本消化器病学会関東支部例会プログラム・抄録集. 2021;(367):41.(日本消化器病学会関東支部第367回例会, 2021年12月)
4) Tanaka, T. et al.:J Gastroenterol Hepatol. 2006;21(7):1143-1149.
5) Hirai, F. et al.:J Gastroenterol. 2020;55(2):133-141.
6) Yokoyama, Y. et al.:J Crohns Colitis. 2020;14(9):1264-1273.
(利益相反:本研究は一部JIMROの資金提供を受けて行われた。著者の一部はJIMROの社員である。)
7) Papadopoulou, A. et al.:Acta Paediatr. 1995;84(1):79-83.
8) 下山孝ほか:日本アフェレシス学会雑誌 1999;18(1):117-131.
(利益相反:本研究はJIMROの資金提供を受けて行われた。)
9) Motoya, S. et al.:BMC Gastroenterol. 2019;19(1):196.
(利益相反:本研究は一部JIMROの資金提供を受けて行われた。著者の一部はJIMROの社員である。)
10) 酒匂 美奈子:IBD Research. 2022;16(4):214-218.
11) Yoshimura, N. et al.:BMC Gastroenterology. 2015;15:163.
12) Sako, M. et al.:J Anus Rectum Colon. 2021;5(4):426-432.
13) 酒匂 美奈子 ほか:日本大腸肛門病会誌. 2015;68(1):13-21.
14) 樋口 紗恵子 ほか:日産婦関東連会誌. 2010;47:107-111.