特にCDの再燃に関しては、従来の臨床試験においてTD療法の優位性11)が示されていただけに、日本のリアルワールドデータと乖離が生じた本結果に注目する必要があります。この乖離の一因として、DPCデータではCDの確定診断からTD療法の実施まで、平均2年以上を要していた点が重要と考えます。すなわち、この2年超の期間において、TD療法による治療効果が最も期待できる時期、いわゆるwindow of opportunityを逸した可能性が高く、腸管ダメージの蓄積によってSU療法との間に差が生じなかったのではないかと推察されます。今後、IBD診療の均てん化が進み、最適化されたCD治療が全国に広がることによって、リアルワールドデータにおいてもTD療法が再燃抑制に寄与すると期待しています。
現在のIBD診療において、再燃抑制の観点から重要なのは粘膜治癒の達成であり、自覚症状改善のみを目標とするのではなく、MES (Mayo Endoscopic Score)やSES-CD (Simple Endoscopic Score for Crohn's Disease)などの内視鏡所見スコアを用いて定量化を行い、粘膜治癒を目指す方針が望まれます。なお、内視鏡検査を実施するタイミングについては、IBD専門医でも悩むケースが多いことから、便中カルプロテクチン(FC)やロイシンリッチα2グリコプロテイン(LRG)などのバイオマーカーを、より積極的に活用すべきと考えます。
1) Ochi, M. et al.:World J Gastroenterol. 2021;27(38):6442-6452. 2) Ochi, M. et al.:World J Gastroenterol. 2018;24(28):3155-3162. 3) Ochi, M. et al.:World J Gastroenterol. 2021;27(32):5424-5437. 4) Ochi, M. et al.:Biochem Biophys Res Commun. 2020;529(2):198-203. 5) Ochi, M. et al.:World J Clin Cases. 2021;9(11):2446-2457. 6) Sengupta, N. et al.:Am J Gastroenterol. 2023;118(2):208-231. 7) Ueno, F. et al.:J Gastroenterol. 2017;52(5):555-567. 8) 令和4年版厚生労働白書(令和3年度厚生労働行政年次報告) https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/21/dl/zentai.pdf (2023年3月15日現在) 9) Turner, D. et al.:Gastroenterology. 2021;160(5):1570-1583. 10) Ochi, M. et al.:Int J Colorectal Dis. 2021;36(10):2227-2235. 11) D'Haens, G. et al.:Lancet. 2008;371(9613):660-667. 12) Matsuoka, K. et al.:J Crohns Colitis. 2021;15(3):358-366. 13) 下山 孝 ほか:日本アフェレシス学会雑誌. 1999;18(1):117-131. (利益相反:本研究はJIMROの資金提供を受けて行われた。) 14) 宮川 浩之 ほか:日本アフェレシス学会雑誌. 2006;25(3):240-243. 15) Naganuma, M. et al.:J Gastroenterol. 2020;55(4):390-400. (利益相反:本研究はJIMROからアダカラムの提供を受けて行われた。)