JIMROJIMRO

医療関係者の方へ

GMAのこれまでとこれから:GMAのクリニカルパール探求

Adacolumn Clinical Pearl

アダカラムインタビュー記事シリーズ

GMA 20年をこえる臨床知見からの提言

全国の先生方より、消化器および皮膚領域における最新の診療状況を踏まえた上で、様々な視点から顆粒球吸着療法(GMA)の日常診療における活用方法や工夫、メリットや課題についてお話いただきます。

IBD:炎症性腸疾患、UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病、PP:膿疱性乾癬、PsA:乾癬性関節炎(関節症性乾癬)

※先生のご所属先および役職、治療指針等は掲載時点の情報です

北海道山口県アダカラム
インタビュー記事シリーズVol. 50

IBD診療を担う次世代リーダー ~地域を越え、いまを語る~

札幌東徳洲会病院 IBDセンター 部長       伊藤 貴博 先生(写真左)
市立旭川病院 IBDセンター長           稲場 勇平 先生(写真中央)
山口大学医学部附属病院 光学医療診療部 准教授    橋本 真一 先生(写真右)

IBDは若年で発症し、病悩期間は長期に及ぶことから、医師は患者さんの一生を考慮しながら、適切な時期に適切な治療を選択する必要があります。今回は、IBD診療の現状とこれからの課題について次世代リーダーとしてIBD診療を牽引されておられる3人の先生方にお話を伺いました。

記事を見る

IBD専門医としてのルーツ
――先生方が炎症性腸疾患(IBD)をご専門にされたきっかけを教えてください。
稲場先生:大学の臨床実習において、消化器内科で初めて受け持った方が、若い難治性クローン病(CD)患者さんで、その印象がとても強く、若い患者さんのQOL改善にやりがいを感じたことがきっかけでIBD診療の道を志しました。その際に、ご指導いただいた先生の一人が伊藤貴博先生で、その後も、伊藤先生をはじめ同世代の医師たちと切磋琢磨しながら診療経験を積むことができたことが、今の私の原点と考えています。

伊藤先生:私は大学卒業後、旭川医科大学の消化器血液内科に入局したのですが、その際にお声がけくださったのが、現在 札幌徳洲会病院IBDセンター長の蘆田知史先生でした。入局後もIBDと関わりの深い先生方から丁寧にご指導頂いたことが、現在に大きく影響していると考えています。また当時、CD患者さんは入院することが多かったので、病棟の若いCD患者さんと夜中までよく話していたことも、IBD専門医を志したきっかけの一つです。

橋本先生:私は、山口大学の消化器内科に入局した当初、特にIBD専門医を目指しているわけではありませんでした。しかし、入局11年目に下部消化管領域のスタッフが私一人となり、IBD患者さんを一人で診なくてはいけない状況となりました。当時、困難もありましたが、様々な研究会にお誘い頂いたことをきっかけにIBD診療を深く学ぶ機会ができ、さらに研究会を通して伊藤先生や稲場先生とも知り合うことができました。

 また、診療していた患者さんが寛解導入できたことで10年ぶりに家族旅行に行けたことや、約半年入院していた小児の患者さんが退院して運動会に参加できたなど、心を揺さぶられる嬉しい出来事があったことも、IBD診療への志をより強固にしたと感じています。稲場先生、伊藤先生と同様、IBD診療を通して医師としてのやりがいを感じられた経験や、相談し合える素晴らしい仲間に出会えたことが、私のルーツであると考えています。

 

IBD診療における大学病院、市民病院、民間病院の役割とは
――先生方は現在、大学病院・市民病院・民間病院と異なる医療施設にご所属されていますが、それぞれの役割や取り組みについて教えてください。
稲場先生:市立旭川病院は旭川市の中心部にある基幹病院であり、市内や近郊の患者さんが受診しやすい体制を整えています。IBDは腸管外合併症を発症することも少なくなく、また治療は長期にわたるため結婚や妊娠といったライフイベントのサポートが重要です。皮膚科や精神科、婦人科など様々な診療科と連携し、患者さんのQOL向上をバックアップするため、当院ではIBDセンターを設立しました。指定難病申請について経験豊富なスタッフも数多く在籍しており、社会保障面でのサポートも行っています。

伊藤先生:札幌東徳洲会病院は民間病院であり、土曜日診療などの患者ニーズに応えることが重要な役割の一つだと考えています。特にIBD患者さんは若い方が多く、平日の受診が難しい場合があるため、土曜日にも外来枠を設けています。また、他院で治療に行き詰まってから患者さんをご紹介頂くことが多いので、最後の砦として、できるだけ速やかにスタッフ総出で対応することを基本コンセプトとしています。さらに、道内各地からご紹介頂いていますので、退院後の病診連携や病病連携にも積極的に取り組んでいます。

 また当院ではIBDが診療できる医師の育成や指導にも力を入れています。実際、札幌ではIBDの患者数に対し専門医がまだまだ足りていないのが現状です。そこで、病院グループ内でのネットワークを活かし、若手医師の学びの場の提供や、IBD診療で困っている先生方向けに症例検討会や勉強会なども開催しています。さらに医師だけでなく、メディカルスタッフの育成にも力を入れており、看護師、栄養士、薬剤師はもちろん、事務スタッフも含めた院内全体の勉強会を毎月開催しています。

 ここ数年はe-ラーニングという形で、講義内容を医師とメディカルスタッフが共同で考え、受講後には理解度を測るためのテストを実施しています。全講義を視聴し、テストもクリアすれば認定バッジを配布するなど、スタッフのモチベーションを上げるような工夫もおこなっています。基本的に自由参加ですが、例えば看護師が学会や研究会で発表するようになったり、e-ラーニングを自ら進んで勉強したいと希望する方が増えたりと、積極的な姿勢のスタッフが増えたように感じます。

橋本先生:山口大学医学部附属病院は山口県内唯一の大学病院であることから、特に「若手医師の育成」に力を入れています。消化器内科医として、内視鏡や上部消化器疾患などの消化器診療全般に満遍なく携わってもらうことはもちろんのこと、講義や臨床研修を通してIBD診療にも興味を持ってもらえるよう努めています。また、当院で研修している若手医師向けに、15分程度のショートレクチャーを毎週行っています。このような活動を通してIBDを診療できる医師が一人でも増えることを期待しています。

 若手医師を指導するときに大切にしていることは「治療を行う際の論理過程を追っていくこと」です。IBDの治療選択肢が多様化した現在、患者さん個々の治療を最適化するには論理的思考が重要で、なぜその治療選択に至ったのかを一緒に考えていける指導体制を構築したいと考えています。

伊藤先生:今は消化器内科を希望される先生が少なくなっている印象があります。研修医には胃カメラを触ったり、実際に操作したりと興味を持ってもらうように努力しているのですが、なかなか難しいです。研修医になるときには自分の方向性がある程度決まっているので、そういった意味では学生の頃から消化器やIBDに興味を持ってもらい、消化器内科分野全体で盛り上げていくことが必要かもしれません。橋本先生のような存在は非常に重要だと思います。

 

これからのIBD診療に求められること
――IBDの治療選択肢は多様化し、患者数は年々増加しています。これからのIBD診療には何が求められるでしょうか?
橋本先生:山口県においても、IBDは患者数の増加に対して、診療できる医師はまだまだ不足していると感じています。IBD診療の魅力を医学生や若手医師にしっかり伝え、将来的にIBDを診療できる医師を育成していきたいと考えています。

伊藤先生:治療選択肢が多様化していますので、患者さんが治療を選択しやすくなるような手助けも重要です。例えば、患者さん同士で意見交換ができるコミュニティや、各治療法の特徴等をまとめたパンフレットを作成することでサポートできると考えています。また、医師同士でも各治療法の実臨床における有効性および安全性のデータなど、治療を行う側としても情報を収集していく必要があるのではないでしょうか。

稲場先生:IBDは単に病気を診るというよりも、患者さん本人をしっかり診ることが重要です。例えば、受験や結婚、妊娠など、様々なライフイベントを一緒に乗り越えていけるよう、医師としてサポートしたいと考えています。治療選択について、昔は医師主導で決めていましたが、今は患者さんの価値観や生活を尊重しつつ、一緒に考え選択することを心掛けています。

 

これからのGMAの位置づけ
――2022年1月よりGMAは潰瘍性大腸炎(UC)の維持療法としても保険適用されましたが、先生方の考える最適な患者像を教えてください。
橋本先生:山口県は高齢化率が全国第3位(2021年)1)であり、IBD患者さんも高齢化が進んでいる地域です。安全性への考慮が必要な高齢IBD患者さんに対して、非薬物療法であるGMAは治療選択肢の一つとして期待できると私は考えています2)。仕事をリタイアされておられる方であれば、比較的、時間の制約もないので通院のハードルも下がります。UC維持療法が保険適用となったことで、寛解導入から維持まで一貫してGMAによる治療が可能となり、われわれ高齢化県としては、治療選択肢の幅が広がったと考えています。

伊藤先生: GMAは非薬物療法ですので、コロナも含め感染症がまん延している状況下で、安全性を考慮すべき症例にも選択しやすい治療法の一つだと考えています。さらに生物学的製剤が登場していますが、効果減弱3)や効果不十分4)の場合に補助療法としてGMAの併用を検討する場合があります。他のIBD治療への影響が少ないことから、私にとってはかゆいところに手が届く治療法として非常に着目していますし、実際、助けられているところが多々あります。

稲場先生:お二人の先生もおっしゃられたとおり安全性を考慮したい場合の選択肢として活用できると考えています。高齢の方や、ステロイドや生物学的製剤などの免疫統御療法が適応し難い方などの第一選択や補助療法として、GMAのような存在は必要です。また、GMAが有効であった方は、再治療時にも有効である印象を持っています。繰り返し使える特徴に加え、維持療法で使えるようになったので、今後、GMAを選択する機会が増えるのではないかと思っています。

 IBD領域では、今後も様々な新規薬剤が登場するなど治療選択肢の多様化が進むことが予想されます。GMAをはじめとした既存治療もしっかり使いこなしつつ、患者さんにとって一番良い治療を選択できるよう、専門知識を持ったIBD医師の育成や地域の医療連携に力を注いでいきたいと考えています。

 

1)令和4年版高齢社会白書(内閣府) https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/html/zenbun/index.html (2023年1月23日現在)
2) Motoya, S. et al.:BMC Gastroenterol. 2019;19(1):196.
(利益相反:本研究は一部JIMROの資金提供を受けて行われた。著者の一部はJIMROの社員である。)
3) Yokoyama, Y. et al.:J Crohns Colitis. 2020;14(9):1264-1273.
(利益相反:本研究は一部JIMROの資金提供を受けて行われた。著者の一部はJIMROの社員である。)
4) Dignass, A. et al.:J Crohns Colitis. 2016;10(7):812-820.