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医療関係者の方へ

GMAのこれまでとこれから:GMAのクリニカルパール探求

Adacolumn Clinical Pearl

アダカラムインタビュー記事シリーズ

GMA 20年をこえる臨床知見からの提言

全国の先生方より、消化器および皮膚領域における最新の診療状況を踏まえた上で、様々な視点から顆粒球吸着療法(GMA)の日常診療における活用方法や工夫、メリットや課題についてお話いただきます。

IBD:炎症性腸疾患、UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病、PP:膿疱性乾癬、PsA:乾癬性関節炎(関節症性乾癬)

※先生のご所属先および役職、治療指針等は掲載時点の情報です

東京都アダカラム
インタビュー記事シリーズVol. 57

地域医療連携における内視鏡検査の実際と GMAに期待される役割

関東中央病院 消化管内科 部長 渡邉 一宏 先生

消化器内視鏡は、IBDの病勢把握はもとより消化管止血やがんの早期発見から切除まで、幅広く患者さんの健康を支える必要不可欠な診療デバイスとなっています。その一方で、受診者にとって内視鏡検査に伴う負荷は決して小さいものでは無く、併せて限られた医療資源の最適化のためにも、がんのスクリーニング内視鏡検査、特にピロリ未感染・ピロリ除菌後胃がん、UC関連大腸がんなどのサーベイランスにおける適切な検査間隔の設定が望まれています。そこで今回は、地域の中核病院におけるIBDを含む内視鏡検査の実際や、UCにおける5-ASA不耐の対策などに関して解説いただき、さらにGMAに期待される役割についても伺いました。

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関東中央病院における内視鏡診療による地域貢献

 当院は、人口90万人を超える世田谷区において、最多病床数(2023年:一般343床・地域包括40床)を有する中核的医療機関であり、地域医療連携を推進しながら内視鏡診療に注力しています。年間の内視鏡検査総数は、COVID-19の影響を受けたものの概ね1万件強で推移しており、内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)も2006年に開始して以降、食道/胃/十二指腸/大腸と幅広く実施することで地域医療への貢献を図っています。また当院では、大腸ESDを先駆的に導入し、2012年の保険収載の礎となった「先進医療として施行された大腸ESDの有効性と安全性に関する多施設共同前向きコホート研究」1)に全国69施設の一つとして参加するなど、臨床知見の構築にも積極的に取り組んでいます。

 

 内視鏡検査は現在の消化器診療において必要不可欠である一方、特に高齢の患者さんに対しては、安全性などのリスクについても適切に評価する必要があります。例えば、大腸がん撲滅に向けた対策型大腸内視鏡検診の導入に私は期待していますが、高齢者では大腸内視鏡検査(CS)自体に加え、前処置や関連薬剤を含めて合併症のリスク上昇が報告されていることから2)、年齢無制限での無症状者に対する一次スクリーニングには疑問が残ります。そこで、当院でCSを受けてから5年以上経過した90歳以上の高齢者を対象にアンケート調査を実施しました。すると、CS群と対照群との間に平均生存期間の有意差はありませんでした3)。併せて、治療群における検討から超高齢者においては血便などの症状が出てからのCSでも遅くはないと判断しました。ただ患者満足度の点では、返書のあった全例で検査後に不安が取り除かれたとの感謝の回答があり、高齢検査希望者の排除はあってはならないとも思われました。

 

 この結果から、私たちは強制力のない高齢者に対する「世田谷地区大腸内視鏡地域医療連携ローカル・ルール【】」を作成し、現在も運用しています。この他にも内視鏡診療による地域貢献をテーマとして、日本医事新報において約1年間の連載を行い4)、日本全国の医師と情報の共有化を図りました。医学の進歩において、最新の知見や手技の報告はもちろん重要ですが、地域の日常診療における課題を抽出して広く提示し、全国から対策を集積させることも同様に意義が大きいと考えています。

 

 

関東中央病院におけるIBD診療の実際

 部長の私のみの外来では炎症性腸疾患(IBD)患者数は、年間で潰瘍性大腸炎(UC) 125例、クローン病(CD) 20例です。当院外科がIBD治療をしていないためCDは少ない傾向にあります。また軽症の基本的な5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤のみでコントロール可能な症例は地域かかりつけ医にお願いし、中等症~重症および難治例は当科に紹介を受け、さらに病勢安定後に逆紹介を行っています。本来ならば、分子標的薬による寛解維持療法の場合もかかりつけ医において対応が可能と考えていますが、安全性や受診コンプライアンスなどの面から困難なのが実情で、この場合は当科で引き続き加療継続にしています。

 

 近年、UC診療において、高齢者および5-ASA不耐の増加が課題となっています。実際に当院でも、90歳近い患者さんの初発UCも複数例で経験しており、易感染性など高齢者の脆弱性を考慮し、注腸製剤なども活用しながら集学的治療を行っています。

 

 次に激しい免疫反応をする5-ASAアレルギー(不耐を除く)に関しては、2010年は2%程度の報告5)でしたが、当科では2023年には7%まで増加しています。この5-ASAアレルギーは、薬剤リンパ球刺激試験(DLST)の感度が46%程度と低いことなどから診断が苦慮するだけではなく、UCの基本薬である5-ASAの完全な中止が求められることからUC治療の根幹を大きく揺るがすものになります。現在は、治療選択肢が増えたことで従来に比べると対応しやすくなりましたが、分子標的薬の投与が難しい場合や患者さんの希望などから漢方薬を用いる場合もあります【】。漢方薬の青黛はUCへの有用性が示唆されています6-8)が、副作用として肺動脈性肺高血圧症(PAH)への関与も指摘されています9)。当科においては青黛とは異なる漢方薬の啓脾湯をUC寛解維持に用いた症例を経験しています5)。ただし、啓脾湯をはじめとした漢方薬をUCに使用する際には、その漢方薬の副作用を十分熟知した上での患者さんへ投与する義務があり、安易な処方は避けていただきたいと思います。

 

 この点で非薬物療法である顆粒球吸着療法(GMA)は、安全性の考慮が必要な患者さんに対しても使いやすい有用10)な治療選択肢の一つとして捉えており、当科では治療強化およびステロイドの総投与量減量11)を目的に併用しています。なおGMAに関しては、5-ASAアレルギー以外でも背景を問わず、入院によるUC治療時には、ほぼ全例に対して週2回のintensive GMAを行っています。この際、入院時に脱水状態にあるUC患者さんには当日から十分な輸液を行い、循環動態が改善した上で翌日からGMAを施行しています。

 

 

IBD診療における内視鏡検査の実際と今後の展望

 IBD診療におけるCSは、病勢把握や治療効果判定に加え、UC関連腫瘍(UCAN)のサーベイランスにおいても必要不可欠ですが、患者さんに前処置をはじめとした負荷を強いることから実施タイミングの最適化が望まれています。当院では、基本的な考え方として大腸ポリープと同様に捉えており、すなわちMES(Mayo Endoscopic Subscore) 0であれば再検査は3年以降、MES 1かMES 2の場合は臨床的寛解が得られていても1年か2年以内に再検査を行う方針となっています。

 

 これらCSにおける重要な点として、特にUCの場合、大腸粘膜の過敏性から疼痛を強く感じやすいことを把握しておく必要があります。患者さんは一度強い疼痛を感じると、今後の内視鏡検査を拒否される場合も考えられるため、可能な限り鎮静下で行い、大腸粘膜を刺激しないよう細心の注意を払いながらの操作が求められます。それでも、内視鏡検査を断る患者さんは珍しくありませんが、インフォームドコンセントの際に発癌リスクについて十分説明し、その確認のために必要である点を伝えると納得が得られやすい印象を持っています。

 

 UCANのサーベイランスにおいて腫瘍を認めた際、異形成か散発性かによってアプローチは異なるものの、近年は必ずしも大腸全摘が選択されるわけではなく、一部ではESDも実施されています。当科においても、30mm以上の早期がんESD 7例の経験を有していますが、UCでは粘膜下層がUC独特の瘢痕化により顕著に薄くなっているため手技的には十分な注意を必要とするものの、一括切除後は全例が5年以上再発することなく現在も入念に経過を観察中です。UCANのESD実施例は、全国で増加しつつありますが、その適応について今後の大規模なエビデンスの構築が望まれます。

 

 IBDの治療選択肢はGMAなどの非薬物療法から分子標的薬まで多様化しており、その恩恵を患者さんへ確実に届けるために、疾患啓発の重要性が今後より一層高まるのではないでしょうか。例えば高齢者では、UC発症による下痢や腹痛を加齢によるものと誤解して、医師に相談しない場合もあるため、IBDという疾患の存在を広く知ってもらう必要性を感じます。そのために、私を含めIBD臨床医は新聞やテレビといったメディアも活用しながら、一般生活者に対して認知させることが重要と捉えています。さらに、患者さんが腹痛などで最初に訪れる機会が多いかかりつけ医の先生方に対しても、医師会などを通じて、IBDの早期診断に寄与する問診のあり方などについて、一緒に考えていければと期待しています。

関東中央病院_渡邉先生_図表.jpg

1) 藤城光弘ほか:日本消化器内視鏡学会雑誌 2015;57:1411-26.
2) Causada-Calo N, et al.:JAMA Netw Open 2020;3:e208958.
3) 渡辺一宏:Prog Dig Endosc 2015;87:63-7.
4) 渡邉一宏:日本医事新報 2020;(5000):25. より 日本医事新報. 2021;(5048):60. まで
5) 渡辺一宏ほか:Prog Dig Endosc 2016;88:65-8.
6) Naganuma M, et al.:Gastroenterology 2018;154:935-47.
7) Kanazawa A, et al.:Surg Today 2014;44:1506-12.
8) Ozaka S, et al.:PLoS One 2022;17;e0269698.
9) IBD研究班:潰瘍性大腸炎治療における青黛、および青黛を含有する漢方薬に関するコンセンサスステートメント(公開日2022 年 11 月 21 日), http://www.ibdjapan.org/for_medical/pdf/doc19.pdf (2023年11月現在)
10) Motoya S,. et al.:BMC Gastroenterol 2019;19:196.
(利益相反:本研究は一部JIMROの資金提供を受けて行われた。著者の一部はJIMROの社員である。)
11) 下山孝ほか:日本アフェレシス学会雑誌 1999;18:117-31.
(利益相反:本研究はJIMROの資金提供を受けて行われた。)