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医療関係者の方へ

GMAのこれまでとこれから:GMAのクリニカルパール探求

Adacolumn Clinical Pearl

アダカラムインタビュー記事シリーズ

GMA 20年をこえる臨床知見からの提言

全国の先生方より、消化器および皮膚領域における最新の診療状況を踏まえた上で、様々な視点から顆粒球吸着療法(GMA)の日常診療における活用方法や工夫、メリットや課題についてお話いただきます。

IBD:炎症性腸疾患、UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病、PP:膿疱性乾癬、PsA:乾癬性関節炎(関節症性乾癬)

※先生のご所属先および役職、治療指針等は掲載時点の情報です

北海道福岡県アダカラム
インタビュー記事シリーズVol. 60

北と南のエキスパートが語る IBD診療の現況とこれからの未来像 【後編】IBD診療のこれからの未来像

札幌医科大学医学部 消化器内科学講座 教授 仲瀬 裕志 先生 (写真左) 
福岡大学医学部 消化器内科学講座 主任教授 平井 郁仁 先生 (写真右)

前回の対談【前編】では、大きな変革の時を迎えているIBD診療の現在に関して、これまでIBD診療をリードされてきたお二人の先生方よりお話を伺い、臨床における実情と課題、更にその対策について解説いただきました。そこで今回の後編では、前編の討議を踏まえ、今後のより良いIBD診療の未来を構築するために、必要となる知見や体制に加え、情報テクノロジーの活用など、COVID-19の経験等に基づいた新たな展望についてお話を伺いました。

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JAPAN IBD COVID-19 Taskforceの活動について

――炎症性腸疾患(IBD)診療の未来を考える際に、様々な社会状況への対応も重要と考えられますが、その一例として、COVID-19の流行時に設立されたJAPAN IBD COVID-19 Taskforceの活動について教えて頂けますか。

 

仲瀬先生:"JAPAN IBD COVID-19 Taskforce"は、緊急事態宣言が発出された2020年4月に、「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班の班長である杏林大学 久松 理一 先生が中心となって設立されました。IBDは免疫系に作用する治療が多いだけに、久松先生をはじめTaskforceメンバーの危機意識は高く、連日ひっ迫感を持って深夜まで論文収集やメールのやり取りを行い、4月19日にWeekly Summary第一報の発表に至りました。

 

平井先生:当時はまさに非常事態として捉えていたため、一刻も早く適切で正しい情報を届けたいという義務感にあふれていました。この速やかな発表が実現した背景には、IBDエキスパートの先生方の間で、自由で活発な議論を交わす環境が既に形成されていた点が大きいと考えます。このような、いわゆる風通しの良い関係を、都道府県や地域のIBD診療施設間でも築いておくことが、今後の新たな感染症の流行や大地震などの非常事態に備える点でも意義があるのではないでしょうか。

 

仲瀬先生:日本のIBD専門医は、エビデンス構築に対する意識が非常に高く、積極的に研究へ参加されるため、COVID-19に関しても大規模なデータを世界に対して速やかに提示することが可能となりました。その成果が、日本のIBD患者さんにおけるCOVID-19罹患の実態を調べた多施設共同レジストリ研究「J-COSMOS」1,2)や、IBD患者さんが感じた不安や行動変容に関するアンケート調査による多施設共同前向き観察研究「J-DESIRE」3)、COVID-19ワクチン接種に対する免疫応答と安全性を検討した多施設共同前向き観察研究「J-COMBAT」4)などの形で結実しています。

 

平井先生:それらエビデンス以外にも、COVID-19による影響や変化として、適切な全身性ステロイドの投与法が、改めてリマインドされた点があげられます。すなわち、全身性ステロイドの安易な投与を避けた上で、必要ならば十分量投与し、その後は可及的速やかに20mg/日以下への減量を図る投与法ですが、IBD専門医においては常識的ではあったものの、Taskforceの提言により再度広く周知されたものと考えます。また、COVID-19が情報通信技術(ICT)を活用した遠隔医療推進の契機となった側面もあります。

 

IBD診療における遠隔医療および地域医療連携の展望 

――IBD患者数の増加や高齢化が進む中、遠隔医療や地域医療連携に注目が集まっていますが、その現況と今後の展望について教えて下さい。

 

仲瀬先生:前述のJ-DESIRE 3)において、Visual Analogue Scale(VAS)により患者さんの不安を評価し(10点が最も強い不安)、通院に要する時間との関係を調査したところ、通院時間:不安尺度は、30分以内:約4.9点、1-2時間:約5.4点、3時間以上:約5.9点と、通院時間の増加に伴い不安も増加する正の相関が認められました。さらに、"IBD診療ができるかかりつけ医"について、どの程度必要と思うかをVASで評価したところ(10点が最も必要)、6点以上が69.1%を占め、10点も32.0%と、IBD患者さんが強く望んでいる現状が示されました。これはCOVID-19流行下の調査ですが、IBD患者さんの希望に応え、非常事態に備える意味でも、寛解維持期の診療はかかりつけ医が担い、重症化した際はIBD専門施設へ円滑に紹介できるような地域医療連携の体制整備が望まれます。そのために、まずはIBDを診てくださる医師の増加が求められることから、日本炎症性腸疾患学会などによる積極的な支援も重要と考えます。

 

平井先生:IBDを診てくださる医師の増加は、地域におけるIBD診療のレベルアップに大きく寄与するため、私たちも非専門医や医療スタッフを対象としたIBDセミナーを開催し、地域医療連携の推進に努めています。ただし課題として、セミナーや勉強会を開いても、参加される先生方が固定化されやすく、熱心な方々の存在は大変有難い一方で、新たに参加いただく先生方は多くないのが実情です。IBD診療は、長期に亘って患者さんの生活を支え続け、就学・就職・結婚などといったさまざまなライフイベントにも立ち会えるやりがいのある魅力的な領域と思います。

 

仲瀬先生:IBD診療ができるかかりつけ医に関して、私たちの推進するIBDの遠隔医療体制は"D to P with D (Doctor to Patient with Doctor)"5)であり、患者さんと連携先施設の医師が同席する形となっています【1】。ここで予想外であったのが、遠隔医療に立ち会った先生方からスキルアップにつながったとの声を頂いた点です。IBD専門医が限られる中、特に広大な北海道においてIBD患者さんの通院負担の軽減に加え、かかりつけ医にとっても実践的な研修の機会を提供した意義は大きいと捉えています。これらの点が総合的に評価され、内閣官房 デジタル田園都市国家構想実現会議による令和4年度「冬のDigi田甲子園」において、このIBD遠隔医療体制がベスト8を受賞しており、今後より多くの地域において、このような取り組みが展開されていくことに期待しています。

 

平井先生:九州には島しょ部が多く、実際に船を使って当院まで通院されている県外のIBD患者さんも珍しくないため、遠隔医療は積極的に導入すべき対策の一つと考えています。一方でこのような距離的障壁に加え、若年層が多いIBD患者さんにとっては、診療のための時間帯や曜日も障壁となり得ます。例えば顆粒球吸着療法(GMA)は、医療機関での施行となるため、患者さんの近隣の透析施設などとの地域医療連携を行っていますが、今後はより治療時間の選択がしやすくなるよう、職場の多い都市部における24時間施行可能なオーバーナイトクリニックとの連携も検討しています。

 

 

未来のIBD診療に向けて望まれる対策   

――今後のより良いIBD診療のために、疾患啓発のあり方について、お考えを教えて下さい。

 

仲瀬先生:現在、IBD罹患を公言されている政治家やスポーツ選手、芸能人などは珍しくないため、一般生活者の間にもIBDへの認識が広まっているものと推測していました。しかし、2020年3月に私が監修した非IBD患者対象のインターネット調査では、9割以上が「IBD という疾患の詳細を知らない」との厳しい現実が示されました6)。IBD患者さんが社会生活を送る際、例えばトイレに近い席の方が望ましい点など、少しの配慮が求められる場合もあり、やはり一般生活者の疾患に対する理解が必要と考えます。そのために、私たちIBD専門医がマスコミの取材にも積極的に対応し、さらにSNS(Social Networking Service)などで情報発信することも重要ではないでしょうか。

 

平井先生:SNSの中心的な利用者は若年層であり、IBDの好発年齢と合致することから、疾患啓発として有効な手段の一つと考えます。当院では、COVID-19が落ち着いて以降、患者さん向けのIBD教室を定期的に行っていますが、近年はその様子を動画投稿型SNSであるYouTubeにて配信しています【2】。講演の内容は、病態から治療、薬剤の副作用、ストーマ、栄養療法と多岐にわたっており、幅広い職種が演者を担当しています。テーマによっては、再生回数が5千を超える場合もあり、IBD患者さんが知りたい事柄について把握することにも寄与しています。現在は福岡大学病院 公式チャンネルからの配信のため、再生回数に限度があるのも実情ですが、映像を工夫して行政などとも協力することで、一般生活者も対象に含めて疾患啓発を行っていきたいと望んでいます。

 

――最後に、IBD診療の未来を担う若手の医師や医療スタッフにメッセージを頂けますか。

 

仲瀬先生:IBDは、様々な因子が病態形成に関与しており、治療のアプローチも多種多様であるだけに、臨床と基礎研究を併せて行いながら両者を結ぶ"フィジシャン・サイエンティスト"が強く望まれています。目の前の患者さんをはじめとして、さらに多くの患者さんの治療成績やQOLを改善するために、病態解明や治療法の確立に関する基礎研究が必要不可欠であるため、今後のIBD診療を担う若手医師や、医療スタッフによる研究への積極的な参加に期待しています。

 

平井先生:IBD領域は、治療法が乏しく、まさに難病であった時代を経ているため、施設間の仲間意識や連帯感が強く、オールジャパン的なネットワークが既に構築されています。このため、多施設共同研究を行いやすい土壌が形成されており、この貴重な状況を絶やすことなく活用しながら、基礎的な視点も加味して世界に論文を発表し続けて欲しいと考えています。

――前編・後編 完

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1) Hayashi, Y. et al.:Gastroenterology. 2022;163(1):338-339.
2) Nakase, H. et al.:J Gastroenterol. 2022;57(3):174-184.
3) Nakase, H. et al.:J Gastroenterol. 2023;58(3):205-216.
4) Watanabe, K. et al.:J Gastroenterol. 2023;58(10):1015-1029.
5) 厚生労働省:オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会 平成30年度第3回資料, https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04246.html (2023年12月現在)
6)読売新聞社:読売新聞 夕刊. 2021年6月5日号