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GMAのこれまでとこれから:GMAのクリニカルパール探求

Adacolumn Clinical Pearl

アダカラムインタビュー記事シリーズ

GMA 20年をこえる臨床知見からの提言

全国の先生方より、消化器および皮膚領域における最新の診療状況を踏まえた上で、様々な視点から顆粒球吸着療法(GMA)の日常診療における活用方法や工夫、メリットや課題についてお話いただきます。

IBD:炎症性腸疾患、UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病、PP:膿疱性乾癬、PsA:乾癬性関節炎(関節症性乾癬)

※先生のご所属先および役職、治療指針等は掲載時点の情報です

福岡県アダカラム
インタビュー記事シリーズVol. 33

UCに対する粘膜治癒の定義および課題とGMAへの期待

田川市立病院 消化器内科 部長
岸 昌廣 先生

近年、UC治療では再燃抑制の観点から、粘膜治癒を治療目標の一つとする考え方が浸透しつつあります。しかし、これまで行われてきた各種臨床試験において、粘膜治癒の評価指標と定義は統一されておらず、臨床へのフィードバックにおいて混乱が見受けられるのも実情です。そこで今回は、実臨床における粘膜治癒の考え方について解説いただき、併せてGMAの位置付けと期待される役割について伺いました。

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田川市立病院の概要とIBD診療の実際
 当院は福岡県筑豊地区唯一の感染症指定医療機関であり、田川市の中核病院として地域の急性期医療を支えることを目標に診療にあたっています。2020年度の年間外来受診者数は約10,300人、消化器内科受診者数は約7,500人でした。そのうち,消化器内科の新規来院患者数は約1,300人でした。消化器内科では院内の他の診療科と連携して集学的治療を目指し、外科とも合同でカンファレンスを行うなど、あらゆる消化器疾患に対する診療に介入しています。

 2020年度には、潰瘍性大腸炎(UC)50人、クローン病(CD)20人の診療を行いました。炎症性腸疾患(IBD)は若年で発症し、その後長期間付き合っていかなければならない疾患であるため、ときには小児科や産婦人科等、各診療科と連携して診療にあたることもあります。当院のUC患者は殆どが軽症で、増悪しても中等症程度です。私自身は20203月まで、全国的にもIBD患者を多く診ている福岡大学筑紫病院消化器内科に勤務していたため、他院から紹介された難治例を診ることが少なくありませんでした。同じIBD診療でも、施設によって患者層が大きく異なることを実感しています。

 前任の病院から現在までも、IBDの基本的な治療方針は変わりません。『潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針』1)、『炎症性腸疾患診療ガイドライン20202)に沿ってIBD治療を行っています。治療法を決定した後はtight control3)、そしてtreat to targetを念頭にSTRIDE4)、あるいはSTRIDE-5)を指標とした評価を行っています。正確な病状把握を行い、患者への十分なインフォームドコンセントとコンセンサスに基づき、最適・最善な治療選択を心掛けています。

 

IBD治療における近年の傾向と課題、留意点
 近年、生物学的製剤(Bio)が次々に登場しています。これらの治療は、IBD治療を大きく変化させました。しかし基本治療、つまりUCにおける5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤、CDにおける栄養療法の重要性は現在も変わりません。

 ただし、これら基本治療に対する不耐例や効果不十分例が存在することも事実であり、その場合はステロイド、免疫調節薬、血球成分除去療法(CAP)、カルシニューリン阻害薬の追加が考慮されますが、これらに関しても副作用や不応例が存在します。そのような症例において、Bioが果たす役割は大きいと考えます。また、いくつかの異なる作用機序を有するBioの登場によって治療選択の幅が広がり、さらに、Bioの長期投与で課題となる抗体産生に伴う二次無効を呈した際に、次の手段を考慮できる点は大きいと考えます。

 当院ではUCに対して5剤、CDに対して4剤のBioを必要に応じて使用しています。どのBioが最適かという点に関しては今後も知見の集積が必要ですが、私は治療選択の際に感染症や癌などのリスクや、targetが大腸か小腸かといった炎症部位の違い、あるいは狭窄の有無やAlb値を重要視しています。またBioは定期的な投与が肝要であり、製剤によって投与方法・投与間隔等が異なることから、患者個別のライフスタイルに合った治療選択が重要です。

 ステロイドに関しては、JAPAN IBD COVID-19 Taskforceのデータによれば、COVID-19による入院率や死亡率等に関してステロイドの高用量投与がリスクとなることが示されています。20224月現在もCOVID-19は予断を許さない状況であることから、当院ではステロイド治療の適応を厳格に設定しており、結果として投与例は減少しています。当院の患者は軽症例が多いこともあり、可能な限りステロイドの使用を回避し、5-ASA製剤の増量や局所療法を選択します。また、安全性の考慮が必要な場合は、顆粒球吸着療法(GMA)も選択肢の一つになると私は考えています。

 治療の進歩と多様化によって粘膜治癒が求められるようになってきました。しかし、各臨床試験において評価指標は統一されておらず、その定義もいまだ議論が生じています。私は実臨床に際しては、STRIDEおよびSTRIDE-Ⅱに基づいた治療目標設定が望ましいと考えます。すなわち、まずはshort-termにおけるsymptomatic responsesymptomatic remissionnormalization of CRPです。これらに続く治療目標として、long-termにおけるendoscopic healingnormalization of QOLabsence of disabilityがあげられます。

 粘膜治癒の定義としてMayo Endoscopic Subscore(MES) 0あるいは1が頻用されています。しかし長期経過では両群において再燃率が異なるというデータが示されており、MES 1の方が再燃しやすいとされています6-9)STRIDE-ⅡでもMES 0の達成が望ましいと提言されています。臨床における具体例を提示しますと【】、MES 0の場合は約6カ月後もMES 0を維持できていました。しかしMES 1と判断した症例は、約9カ月後に臨床症状の増悪を認め、内視鏡を施行したところMES 3相当の増悪を認めました。このように従来の報告と同様の経験を認めることから、実臨床においてもMES 1ではなく0を目指すべきだと考えます。

 

田川市立病院におけるGMA施行の実際
 当院では5-ASA製剤の調整等で病状をコントロールできている症例が多いため、前任の施設と比較するとGMAを施行する機会は少なくなっています。ただし、少ないながらもGMAを必要とする患者はおり、その背景にはステロイドを使用しにくい患者の増加やBioの効果減弱例への対応があげられます。

 UCの治療選択肢は増えてきているとはいえ、それでも限界があります。Treat to targetの達成のためにも、使用可能な治療方法を適確に、かつ集学的に用いる必要があり、GMAは非薬物療法として重要な位置付けにあるのではないでしょうか。特にGMAは、薬物療法が制限されるような妊婦、肺炎や結核等の感染症リスクを有する高齢者や担癌患者に対して重要な選択肢の一つになると私は考えます。

 GMA導入のタイミングとしては、UCの増悪や再燃を疑った際に、なるべく活動性が低いと想定される状態での施行が望ましいと推察します。具体的には、Yamamotoらが60歳以下、罹病期間1年未満、MES 2未満、ステロイドnaïveBio naïveを背景因子に有する患者に対して治療反応性が良好と報告しており10)、私も同様の印象を持っています。

 そのほかGMAが適した患者として、次のように寛解導入療法の検討時に薬物療法が制限される場合があげられます。UCの日常診療においては腸管感染症の合併か、あるいは腸管感染症を契機としたUC増悪かの判断に難渋することがしばしばあります。そのような症例においては、感染症の有無が判明するまでを補う治療として、GMAが有用と私は考えます。さらに、Bioの使用は今後ますます増えると推察されますが、それに伴って長期投与による効果減弱例の増加も予想され、そのような患者にもGMAは検討すべき選択肢の一つと思います。ただし、施行時間の制約(1回約12時間、週に1回か2)があるため、この点について受け入れ可能な患者が対象になります。

 NaganumaらによるCAPTAIN studyでは、CAPUC維持療法における有用性が検討され、有用となる可能性が示されました11)。感染症や担癌患者など様々な背景を有し、安全性の考慮が必要なため薬剤追加による治療強化が困難な症例の病勢コントロールにおいて、GMAの維持療法が選択肢として加わりました。今後、GMAの維持療法に関する更なる知見の集積が望まれます。

田川市立病院_岸先生_図表.jpg

1) 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班):潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針. 令和2年度 改訂版, 2021.
2) 日本消化器病学会 編集:炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2020, 南江堂.
3) Colombel, J.F. et al.Gastroenterology. 2017152(2)351-361.
4) Peyrin-Biroulet, L. et al.:Am J Gastroenterol. 2015110(9)1324-1338.
5) Tuner, D. et al.:Gastroenterology. 2021160(5)1570-1583.
6) Barreiro-de Acosta, M. et al.:J Crohns Colitis. 201910(1)13-19.
7) Yokoyama, K. et al.:Gastroenterol Res Pract. 20132013192794.
8) Carvalho, P.B. et al.:J Crohns Colitis. 201610(1)20-25.
9) Nakarai, A. et al.:World J Gastroenterol. 201420(48)18367-18374.
10) Yamamoto, T. et al.:Clin Transl Gastroenterol. 20189(7)170.
11) Naganuma, M. et al.:J Gastroenterol. 202055(4)390-400.