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GMAのこれまでとこれから:GMAのクリニカルパール探求

Adacolumn Clinical Pearl

アダカラムインタビュー記事シリーズ

GMA 20年をこえる臨床知見からの提言

全国の先生方より、消化器および皮膚領域における最新の診療状況を踏まえた上で、様々な視点から顆粒球吸着療法(GMA)の日常診療における活用方法や工夫、メリットや課題についてお話いただきます。

IBD:炎症性腸疾患、UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病、PP:膿疱性乾癬、PsA:乾癬性関節炎(関節症性乾癬)

※先生のご所属先および役職、治療指針等は掲載時点の情報です

東京都アダカラム
インタビュー記事シリーズVol. 63

IBD診療における多科多職種連携/地域医療連携の 意義とGMAが果たすべき役割

聖マリアンナ医科大学 消化器内科 教授 内視鏡センター・センター長 安田 宏 先生 (写真左)
聖マリアンナ医科大学 消化器内科 助教 加藤 正樹 先生 (写真右)

長期に及ぶIBD診療では、患者さんのQOL向上のために、医師をはじめとして看護師や薬剤師、栄養士、臨床工学技士など、多職種連携による集学的な医療が求められます。さらにIBD診療では、発症患者数の多い小児科はもとより、手術や腸管外合併症の際の外科や皮膚科、整形外科など多科による円滑な連携もQOL向上に大きく寄与します。一方、地域医療連携も患者さんの速やかな紹介による早期治療介入やその後の逆紹介のために重要であり、更には交通アクセスに優れた連携施設における土曜日のGMA施行など、患者さんの生活に寄り添う点でも期待が集まっています。そこで、今回はIBD診療における多科多職種連携および地域医療連携を積極的に推進されている大学病院より、連携の実際やノウハウについてお話を伺いました。

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聖マリアンナ医科大学におけるIBD診療の実際 

――聖マリアンナ医科大学は、質の高い先進医療と専門性に優れた医師の教育を行うとともに、IBD診療では人口密集地帯のハイボリュームセンターとしての役割を果たしていますが、現在のIBD患者数および患者さんの傾向について教えて下さい。

 

安田先生:2022年の集計では、年間UC 450名/ CD 150名が通院中でしたが、その後も地域医療連携による紹介患者さんを中心にIBD患者数は増え続けており、特に小児患者さんの増加が顕著となっています。

 

加藤先生:小児に加え、70歳代の高齢IBD患者さんをご紹介いただくことも珍しくなく、従来は20歳代から30歳代がメインであった状況から、幅広い年齢層へと移行している印象を持っています。また、紹介時の治療内訳として、以前は5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤やステロイドが大部分を占めていましたが、現在はクリニックでも生物学的製剤(Bio)を活用される場合もあり、患者さんの治療状況は多岐にわたっています。

 

安田先生:当院ではIBD診療において、地域医療連携に加え、院内の多科連携も積極的に推進しています。院内全体として診療科間の垣根が低く、気兼ねなくコンサルテーションが可能であり、腸管外合併症や手術などの対応が円滑に進められる体制となっています。副作用や合併症等を含め、全身の症状を捉える必要があるIBD診療において、多科連携は重要であると考えます。

 

加藤先生:多科連携に関して、例えば腎臓内科とはGMAの施行時や合同勉強会などで連携を深めています。さらに研究の面でも腎移植症例におけるIBD発症の疫学データ(論文投稿中)1)をまとめていただき、消化器内科もその臨床経過2)を報告するなど、共に新たな知見の集積に努めています。その他にも、腸管外合併症発現時には整形外科や皮膚科、ステロイド投与時には眼科など、他科と共通認識を持って診療に臨む関係を築ける意義は大きいと考えます。一方、多職種連携について、消化器内科では週に1回のペースでIBDカンファレンスを開催し、治療方針の討議等を行っています【1】。ここで必要に応じて看護部や栄養部、画像センターなどと個別のミーティングを行い、情報共有と課題解決を図っています。

 

安田先生:小児科との連携もIBD診療ではきわめて重要となります。特にIBD専門の小児科医は限られているため、消化器内科と小児科とが綿密な連携を図ることは、小児から成人への移行期医療を含め、10年単位の診療が求められる小児IBD患者さんのQOL向上に大きく寄与します。

 

加藤先生:移行期医療では、担当医が変わることによる治療方針の変更などから問題が生じることも珍しくなく、IBD患者さんのアンメットニーズとなっていました。そこで私たちは、小児科での診療の際に、発症早期から同席して一緒に問診を行い、治療方針も共同で策定することにより、いわば二人の担当医が存在する状況を作り出しています3)。そして、心も身体も大きく成長する15~16歳に達すると、徐々に消化器内科医のみの診療にシフトしていくことで、小児IBD患者さんが安心して移行期を過ごし、更に小児期からの一貫した診療を行えるものと捉えています。

 

 移行期医療以外でも、二人の医師が担当することにより、例えば消化器内科医が適切な内視鏡検査の実施タイミングを判断し、小児の内視鏡検査に熟練した安田先生や前畑 忠輝先生による至急の対応も可能になるなど、円滑な連携が実現しています。また、成長障害については、小児科医が注意深く観察しており、ステロイドの使用量や栄養療法を共同で管理しています。なお治療にあたっては、常に病勢のみで判断するわけではなく、小児にとって貴重な人生経験となる修学旅行や運動会などの前には、小児科医と相談しながら治療強化を図る場合もあり、チーム一丸となって患者さんのライフイベントを支援できるよう心がけています。

 

 

聖マリアンナ医科大学におけるGMAの適応 

――IBD治療における栄養療法やGMAなど非薬物療法の意義と聖マリアンナ医科大学におけるGMAの適応について教えて下さい。

 

安田先生:近年の分子標的薬の相次ぐ開発によって、難治例に対するIBD治療の選択肢は多様化しました。しかし、栄養療法やGMA、外科手術などの重要性は変化しておらず、同様に5-ASA製剤やステロイドなど既存の薬物療法の位置付けも、特にUCでは大きく変化していないものと捉えています。また、分子標的薬は担癌患者さんなどには導入が困難な場合も少なくないため、私たちIBD専門医は非薬物療法を含め豊富な治療選択肢を準備しておく必要があると考えています。

 

加藤先生:これまでも当院では、安田先生や山下 真幸先生がGMAの臨床経験を蓄積されてきましたが、COVID-19の流行以降、GMA施行機会が増加した点を興味深く捉えています。COVID-19流行下では患者さんの感染症に対する意識が高まり、共同意思決定(SDM)において非薬物療法であるGMAが選択されやすかったのではないかと推察されます。また、高齢UC患者数の増加もGMAの施行増加に関与しており、易感染性やポリファーマシーの観点から選択されていたものと考えます。特に高齢発症UCでは難治例が多い4)だけでなく、呼吸器疾患や癌などの併存症を有していることもあり、そのような場合にGMAは治療強化の選択肢の一つとして重要と捉えています。さらに若年層でも、重症かつ難治例に対しては、手術回避のための手段として、抗TNFα抗体製剤にGMAを併用して治療強化5)を図る場合も少なくありません。

 

安田先生:近年は、罹病期間が長く、高齢になられたUC患者さんの増加に伴い、UC関連腫瘍(UCAN)への注意が、より一層求められるようになりました。このため、適切なサーベイランスに加え、粘膜治癒の達成によるUCANのリスク軽減6)も望まれているのではないでしょうか。この点でもGMAは、高齢UC患者さんの寛解導入および寛解維持における治療強化の選択肢として期待されます。一方、小児に対してもGMAは、成長障害や安全性などの観点から重要な選択肢の一つとなります。ただし、小児の場合は、貼付用局所麻酔剤を用いて穿刺痛を軽減させるだけでなく、1時間前後の治療時間を大人しく過ごすために何らかの対策が望まれます。

 

加藤先生:GMAの課題の一つとして定期的な通院が挙げられますが、私たちは患者さんの利便性向上のためにも地域医療連携を導入しており、当院と関連が深い透析内科施設へ、気兼ねなくGMA施行を依頼しています【2】。これらの施設は、あざみ野や登戸といった主要駅に近く、施設によっては平日17時以降や土曜日の施行も可能なため、通院の負担軽減に大きく寄与するものと考えます。このようにGMA施行をはじめとして、患者さんの紹介や逆紹介など地域医療連携の積極的な推進により、地域一体となってIBD患者さんに寄り添った診療体制が構築されることを期待しています。

 

 

聖マリアンナ医科大学が重要視するIBD診療のポイントと今後の展望 

――聖マリアンナ医科大学では教育にも注力されていますが、IBD診療における若手医師へのメッセージや重要視するポイント、さらに今後の展望について教えて下さい。

 

安田先生:近年、SDMの概念が広く浸透しましたが、このような状況下で重要なのは、決して短期的な治療成績のみを追求するのではなく、患者さんの10年後や20年後を見据えた治療も考慮することではないでしょうか。IBD診療は、長期間の治療に対する責任が大きい一方で、医師としての充実感に満ちた領域であり、今後も多くの医師がIBDという疾患に興味を抱いて貰えることを期待しています。

 

加藤先生:幸いにも、当院においてIBD診療に挑む研修医や若手医師は多く、小児科のIBD部門が新設されるなど、実臨床はもとより、研究においても更なる進展を遂げることが期待されます。医師以外も、IBDに対して積極的に取り組むスタッフが多く、栄養部との研究カンファレンスを開始したり、小児科の看護師と研究会を開催したり、薬剤部とも多くのディスカッションを行っており、多職種連携が結実しつつある印象を持っています。一方、IBD治療に関して、医師として続々と開発される分子標的薬に注目するのは当然ですが、それと同様にGMAを含む既存治療についても、その適応や実臨床におけるノウハウについて学び、若手医師らに引き継いでいく責務があると考えます。今後も特定の治療に偏らず、多くの治療選択肢について習熟し、患者さんの生活をサポートしたいと考えています。

聖マリアンナ医科大学_安田先生加藤先生_図表.jpg

1) 緒方 聖友, 宮内 隆政, 村田 真理絵 ほか:移植. 2021;56(suppl):s513. (第57回日本移植学会総会, 2021年9月)
2) 加藤 正樹, 山下 真幸, 清川 博史 ほか:日本消化器病学会雑誌. 2017;114(suppl-2):794. (第59回日本消化器病学会大会, 2017年10月)
3) 鹿野 直樹, 加藤 正樹, 松永 綾子:日本小児栄養消化器肝臓学会雑誌. 2023;37(suppl):72. (第50回日本小児栄養消化器肝臓学会学術集会, 2023年10月)
4) 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(鈴木班):平成30年度 潰瘍性大腸炎治療指針 supplement ─高齢者潰瘍性大腸炎編─ (平成31年3月作成)
5) Iizuka, M. et al.:World J Gastroenterol. 2022;28(34):4959-4972.
6) Itzkowitz, SH. et al.:Gastroenterology. 2004;126(6):1634-1648.